3 毒を喰むのは
「今日はこれらを入れていきなさい」
少女の父親が、使用人に2つの小瓶を渡す。
渡された小瓶の中身が毒であることは、父ももちろん、その料理を運ぶ使用人も、それを食べる少女ですら知っていることだった。
それほど、この家の中では当たり前のやりとりだった。
ただ、これらを用意した本人がどこか晴れやかな態度であることを、使用人は訝しんだ。
「失礼ですが、何かございましたか?」
尋ねられた少女の父親は、隠していた感情をさらけ出すように笑った。
「あぁ、これも今日で終わりだと思うとな。お前もご苦労だった。この先の待遇も良くしてやろう」
使用人は、その微笑む姿と聞かされた言葉から悟ってしまった。
なんて、ひどいことなのだろう。
しかし、一介の使用人が当主に逆らうことなどできなかった。
「…そう、なのですか」
その場から去る少女の父親を、蔑みを超え、いっそ憐れみのこもった眼差しで見送った。
「ねぇ、今からあの子に運ぶの?」
少女の姉は、偶然を装い使用人に声をかけた。
普段は全くの無関心であったことから、使用人は悪い予感がした。
少女の姉は、手に持っていた包みから二つの丸いものを取り出し、運ばれていた料理に落とした。
「姉君様?これは…」
「うふふ、ちょっとした気づかい、かしら?秘密にしなさいね」
そう告げたきり、少女の姉はどこか熱に浮かされたような、浮かれた様子を見せながらその場を立ち去っていった。
使用人は、しばし状況を飲み込めなかった。
それでも、あの父親と姉の喜色の滲む様子が重なり、小さくない失意を覚えた。
料理を運んでいた使用人は、少女の部屋の前まで来ていた。
その使用人以外の人間が、この付近を訪れることは無い。
だからこそ、使用人は行動を起こした。
取り出したのは、薄くスライスされたキノコと、細かく刻まれた花。
使用人の狂ってしまった優しさが、この二つを料理に加えた。
願うことは、あの寝台に眠る少女が、安らかにあることだった。
扉を叩く音が小さく響きます。
それと同時に、眠っていた私も起きました。
ちらりと外を見ると、お日様はもう高く上っていました。
少しお寝坊さんになってしまいました…
って、使用人さんが今日の料理を運んできてくれたんだった。
今日の料理は、やった、リゾットだ。
私の身体はあまり強く無いので、やわらかいものは食べやすくて好きです。
「あの、お嬢様…」
「…?はぃ…?」
「………いえ、また後ほど伺います」
変な使用人さんです。
いや、いつもと同じだったかな?
気にしないでおきましょう、今日もいただきます。
………だったんだけど。
起きてすぐだったせいか、一口食べただけなのに、満足になりました。
ちょっと置いておいて、あとで食べましょう。
うーん、まだちょっと眠いです。頭も体もふわふわします。
少しだけ、また眠りましょう。
寝台の少女は、再び眠りにつく。
既に毒は少女を侵していた。