2 渦巻く思惑は
◆父の思惑
「くっ…まだか…!」
少女の容体を知らされた男は、忌々しく言葉を吐いた。
そこは、この館の最も重要な部屋。
当主の部屋であり、その男こそ少女の父であり、この家の当主であった。
「これでもうどれほど経った…?やはり見込みが甘かったか…」
その父にとって、末娘という存在は邪魔であった。
上の娘は、よくできた。
容姿も頭も、それほど悪くない。むしろ良い方だろう。
だからこそ、失敗はできない。
あのような家の恥はさっさと消さなければいけない。
かといって、事故や急死というといささか周囲の目が厳しくなるやもしれない。
特に、娘の嫁ぐ先には知られない方がいい。
だからこそ、遠回しに、ゆっくりと、確実に死に追いやる必要がある。
しかし、その判断は間違いであったか。
いや、いささか怖気付いていたやもしれん。
今の程度では、あれがいつ死ぬかの検討もつかない。
…少々、危険ではあるが、ここで一気に事を進めてしまった方がいいか。
たしか、そろそろアレらが手に入る筈だ。
そうと決まれば、今後の予定を立てなければならないな。
◆姉の思惑
「まだ、生きてるのね。ほんとしぶとい…」
空になった皿を運ぶ使用人を見つめ、そう呟いく。
不機嫌を隠そうともしないその者は、寝台に眠る少女にとっては姉に当たる。
「せっかく、かっこいい未来の旦那様を見つけたのに、このままじゃ台無しだわ!」
その姉にとっても、妹の存在は邪魔でしかなかった。
ようやく社交の場に立つことができたのだもの。
それに…
あの日見た、あの素敵な方…
すぐにでも婚約を申し込んでしまいたかったのに、お父様に止められるんだもの。
仲を深めるのはいいのに、婚約はダメだって、あんまりだわ!
そもそも、その原因は、私じゃなくてあの妹だって言うのだもの。
いつもそうだわ。
私の望みはあの子の存在が邪魔をする!
もう、もう我慢できないわ!
でも、どうしようかしら…
誰にも怪しまれずにあの子がいなくなる方法なんて…
そうだわ。
確かこの前の用聞きが面白いものことを言ってたわね。
アレと、あとアレも、頼んでみましょう。
うふふ。
待っていてくださいまし、未来の旦那様?
私、頑張るわ!
◆使用人の思惑
「毎日、あのように挨拶をされて、でもまだ懸命に生きてらっしゃる…」
使用人に与えられた部屋に一人、彼女はずっと嘆いていた。
彼女は数少ないこの家の使用人にして、寝台の少女の担当でもあった。
と言ってもその業務は、ただ二つ。
食事を運ぶことと、少女の容体を確認することだけだ。
この家に雇われて、もう短くない時が過ぎました。
元々いた他の使用人もそれなりにやめていき、もう数えるほどしかいません。
私には、帰ることができる場所はありません。
売られるように、この家の使用人となりました。
一度辞めた使用人は、また新しく職を探すことは難しいと聞きます。
それに、生活の保障を受けている身では、どのみち生き方を選ぶことは出来ません。
そうだとしても、この家はあんまりではないか。
当主様には、我が子を守る心は無いのでしょうか。
それどころか、死に追いやるなど。
正気であるとは思えません。
そして、姉君様もよくその父に似てしまわれたのでしょう。
全くの無関心どころか、いえ、嫌悪を隠そうともしておりません。
ここにいるあの使用人も、私を含めて、この家にしか生きる道がないものばかりです。
許されないことだとわかっていても、命令に従わざるを得ません。
…それも言い訳にしかならないでしょう。
結局、私達は妹君様を身代わりに生きていることに変わりはありません。
ならば、ならばと考えてしまいます。
あぁ、私も、もう、おかしくなってしまったのですね。
生きること誰にも望まれず、ただ苦しい思いを重ねるだけなら。
私が、全ての罪を負ってでも、もう、楽にして差し上げたい。
確か、この家の近くの野山にはアレと、あとアレもいましたね。
それらならば、苦痛もなかったはず…
「せめて、最期の瞬間だけでも安らかに…」
そして、その場には6つの毒が揃った。
以前の場合
当主「毒は少し、少しだぞ!あるかもわからんくらいだからな!?」
使用人(それでは効果がないのでは…)
少女(ん…?今日は薄味、かなぁ?)