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必殺の悪役令嬢 キィラ・ゼッコローの生存戦略【連載版】   作者: 小川幸子
【第一章】生き残った令嬢
4/9

悪夢


 キィラは泡沫のような夢を見ていた。夢の中の女性は癖のある銀髪の縦ロールに淡い黄金の瞳をしている。顔立ちは整っているが涼やかな目元が印象的の冷ややかな美貌だ。紅い唇には不敵な微笑みを浮かべており誰かの前に立ち塞がっている。


 キィラは直観的に理解した。自分が十七歳になり次代の女王へ選ばれた場面、二十歳の自分が王配を選ぶ場面、まるで走馬灯のように次々と場面が流れてくる。


 悪夢だと思う。キィラの行いも、キィラへの行いも全てが茶番であり悲劇にも喜劇にもならない他の誰かが主演の舞台。


 そして暗転する。


今度は泡沫ではなく夢にしては随分とハッキリとしていた――



(初代レジーナ女王陛下?)


 キィラが対面しているのは歴史書に載ってある肖像画で見た輝く金髪と黄金の瞳をした美しい人だ。見事なティアラが頭上に輝いている。優雅にお辞儀をされたのでキィラは慌てて最上礼の姿勢を取った。

 顔を見ないように下を向いていると真っ暗な何もない空間から途端に場所が変わる。


 美しい模様が並んだ大理石の床。高い天井にはシーニャス王国の紋章が描かれ、壁の至る場所に魔石が惜しげもなく使用され金の装飾が施されている。

 そして、いっとう豪華絢爛なシャンデリアが煌き階段の先には立派な玉座があった。


 誰も座っていない空席の玉座を守るように後ろには黒い影が立っている。だんだんと明確になる黒のローブを羽織った人物に見覚えがあり首を傾げた。髪色や目の色、さらには顔立ちまで初代レジーナ女王と似ているが注意深く観察すると違和感があった。

 肖像画や先ほど見た柔らかな微笑びしょうとは異なる、勝気な目をした不敵な微笑びしょう。その笑い方をキィラはよく知っていた。


(お父様に、いえ先ほど見たキィラに似ているんだわ)


 気付いたら再び場所が変わっていた。今度はキィラに馴染みのある、いつも家族団欒で過ごしていた居間リビングの暖炉に近い上座のソファへ座っている。本来であれば、この場所には当主である父が座るので無意識にキィラの定位置である右向みぎむかいへ移動しようと立ち上がった。


「そこに座りなさいキィラ」

「……お父様?」


 いつの間にかキィラの背後に立っていたのは黒いローブを羽織った父.キルフォードの声だった。


「キィラ、君だけでも無事で本当に良かった」

「お父様っ!!」

「まだ振り向いてはいけないよ」

「ぇ」


 キルフォードの命令口調をキィラは反射的に構えた。振り向かずに背後を探れば複数の気配を感じる。居たのはキルフォードだけでは無かった。その他にも四人の黒いフードを羽織った人物が居間リビングに佇んでいる。


 キィラは警戒を強めた。いつでも逃れるように、そして殺せるように。


「おいおい。殺気が隠せてないぞ」

「無理もないですよー。飛びかかって来ないだけ賢明だと思いますし」

「随分とお転婆な令嬢に育ったな。良いことだ!!」

「周囲への目配せも出来てますし及第点といったところでしょうか……」

「逃げ道の確保は大切だもんね!」

「殺した方が早くないか? アンタは逃るのばかりが上手くて毒は盛れても周囲に甘すぎた。だから最期は」

「ここでお説教は聞きたくないですー!」

「まったく騒がしいですね。幼子おさなごの前で恥ずかしい……私達を観察して探っているのですから大人として少しくらい取り繕えないのですか?」

「うむ。困惑していても獲物を確認する余裕! 素晴らしいぞキィラ!!」

「自慢の娘ですから」


 キルフォード以外にも壮年の男や感情の薄い少年の声。若い女性とドスの効いた青年が言い争いを続けている。賑やかな会話の中で音量がないにも関わらずよく通る声が響いた。


「……お喋りはそこまでだ。キルフォード、伝えてやれ」


 キィラは見えていなかった。言葉を発してからようやくその人物の存在を認識する。それは恐ろしいことだった。背後を取られるよりも危険だと本能的に理解する。

 キィラの目の前には初代女王の面影が強い黒ローブの人物が堂々と座っていた。殺気を放っているわけではない。けれど、目の前にいるだけで明確に死ぬ幻覚ビジョンを見せられる。


(ころされる、わたくしでは勝てない)


 キィラは無意識に震えていた。圧倒的な実力差を前にして死を覚悟するしかないと悟る。動けない。足掻いたら死ぬ。逆らったら終わりだ。無様に泣き叫ぶのを堪えるので精一杯。いっそ気を失ってしまえば楽だろう。


 しかし、キィラの中である感情が強く叫んだ。


(……二度も死んでたまるもんですか!!!)


 滲む視界から涙が溢れ、より周囲を鮮明にする。死を前にして無抵抗かつ何もできない方がよっぽど無様だ。気絶すれば終わりだと本能が告げる。


 馴染み深い我が家で獲物が無い今キィラは変わりになるモノを思い出しソファの肘掛へ手を伸ばしたその時


「……へぇ、案外骨のある嬢ちゃんじゃねぇか」

「私も驚くばかりです。いやはや、我が子の才能が末恐ろしい」

「素晴らしいですね。私ですら初代が話している間は正気を保つので精一杯でしたのに」

「見事! 初代様を前にして行動できたゼッコローはいつ以来だ?」

「百年ぶりじゃない? ほら、切り裂き以来だよ」

「あの好戦的な坊やは除外です。アレは継ぐ前から壊れてましたからね」

「なら毒殺好きの貴女以来でしょうか」

「コイツの場合は自害だがな」

「もう! 恥ずかしいから忘れてくださいよー!!」


 置いてけぼりのキィラを他所よそに背後は盛り上がっている。それでもキィラは目の前の人物から視線を離さなかった。否、離すことが出来ない。


「随分と興味深い娘だな。いいだろう。キルフォードに代わり初代''ディエアス"であるレクス・ゼッコローみずから次代''ディエアス''に語るとしようか」



 キィラは息を飲んだ。この悪夢はまだ覚めそうにない。

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