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必殺の悪役令嬢 キィラ・ゼッコローの生存戦略【連載版】   作者: 小川幸子
【第一章】生き残った令嬢
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ゼッコロー家の首輪


 ノーキンスは安らかな寝息をたてるキィラを見つめた。キィラが寝返りをうてば癖のある銀髪がサラリと流れる。両手が顔の近くで祈るように組まれ淡い黄金の瞳が閉じられた寝姿は幼い頃の妹と瓜二つであった。


「ヴァルキュア……」


 ノーキンスは魔術火災により骨も残らなかった妹をしのぶ。屋敷は跡形もなく燃えた。亡骸を運び出す時間はなく何人が亡くなったのか詳細は不明だ。しかし救助を行った騎士の証言から十人の使用人と嫡男らしき少年、そして妹夫婦の遺体を見つけたことからキィラを除くゼッコロー伯爵一家および使用人の死亡が発表された。


 そして、産休の為に運良く実家へ戻っていたキィラの乳母が今朝がたライヴァール公爵家の屋敷を訪れヴァルキュアから預かっていたという手紙をノーキンスへと届けた。ノーキンスは懐から取り出し封を開ける。


『ノーキンスお兄様へ

この手紙がお兄様へ届いたということは私と夫の身に何かが起こった時でしょう。不甲斐ない妹をどうか許してください。ゼッコロー家に嫁いだ時から覚悟はできておりましたが、愛しい我が子が生きていることを願って――ヴァルキュアより』


 ヴァルキュアの手紙は遺書だった。内容はゼッコロー家が絶えた時はノーキンスへ我が子を託したい事と兄への謝罪など、ありきたりな文章が綴られていた。

 

 一通ひととおり読み終わった後、ノーキンスは便箋の角で人差し指の先を刺す。すると尖った角に血が付いた。そのまま器用に円形となるように折りたたんでいく。便箋に込められた兄妹だけの秘密の魔術式が浮かび上がり淡い光を放つと手紙は消えた。その代りに家紋の彫られた魔石を中心に無数の小さな歯車が散りばめられた古美金ふるびきん首飾チョーカーりだけが手元に残る。


「――なっ!?」


 ノーキンスは思わず眠っているキィラの近くへ首飾チョーカーりを落とす。本能的に察したのは自身では決して扱えない魔術具ということだ。ほんの僅かな間に触っていただけで全身に激痛が走り魔力を吸い取られる。ノーキンスは姪を危険に晒すわけにはいかないと意を決して首飾チョーカーりに触れようとした。

 しかし、首飾チョーカーりは落とした場所にはない。ほんの少し目を離した隙にキィラの細く小さな首に光るチェーンが見えてしまった。


「キィラが、次代の"ディエアス"ということですか……!!」


 ノーキンスはキィラに着けられた首飾チョーカーりを睨みつける。そして、過去にこの首飾チョーカーりを着けていた義弟のキルフォードは首輪くびわだと自傷していた。彼がになっていた特殊な"ゼッコロー"伯爵家の家業を思い出し拳を握りしめれば血が滲んだ。


(キィラの歩む未来だけでも、血に染めたくは無かったのに!!)

 

 ゼッコロー伯爵家について大半の人々が酒や煙草を扱う貴族だと認識している。

 しかし実際は"王国の為に生き、王国の為に殺す"シーニャス最凶の暗殺者だ。貴族の間では御伽噺のような存在であるが一部では実在すると黙認されている。


 そのことを知ったのは淡い黄金の瞳を持つキィラが生まれたことで、血筋の価値を知る者が放った他国の暗殺者がノーキンスの部下に関わっていたからだ。結果、キルフォードと共闘することになり王国の裏側を知って利用されたあげく大規模な政変による貴族の粛清に手を貸すこととなった。


「恨みますよキルフォード。ヴァルキュアを守れなかった貴方を私は許しません。キィラだけは、何があっても殺させはしませんよ」


 ゼッコロー伯爵家の火災は事故として片づけられた。使用人や伯爵夫妻には殺された形跡があったと報告したが、疑問を持ち再調査を唱えた即位して間もない若い女王の意見も虚しく、老臣達は見解を変えるこをせずに決定を下してノーキンスはやり場のない怒りと裏に潜む思惑を感じ取った。


 そしてノーキンスは決意する。


(キィラだけでも生き残れるよう守ってみせましょう。愛しい妹によく似た可愛い姪を死なせるものか! これ以上、私の家族に手出しはさせません!!)


 ノーキンスとヴァルキュアは仲の良い兄妹だった。

しかし、王宮魔術師だったヴァルキュアは戦争により両足を損傷する。義足となり家で引き籠っていたのに突然、駆け落ち同然でゼッコロー伯爵家へと嫁いでいった妹。ゼッコロー家の系譜は謎に包まれているため、初代女王の長男を始祖とし由緒あることを誇るライヴァール侯爵家の当主であった父、グランファから勘当されてヴァルキュアと暫くの間は交流が途絶えた。


 偶然、その五年後にヴァルキュアと王宮の庭園で再会した。

飴色の瞳を生き生きと輝かせていた妹は幼い嫡男を連れており乳母に抱かれた聡明なアーサーシィンの一言をきっかけにノーキンスとヴァルキュアは手紙のやり取りを始める。屋敷で過ごしていた時よりも美しくなっていた妹をノーキンスは心から祝福し、両親へアーサーシィンのデビュタントを話し初孫可愛さにグランファが勘当を解いた。


 だがキィラが生まれた同時期にグランファは事故で亡くなる。当時は女王付きの近衛騎士であったノーキンスは家督を継いだが、その後は諸国周辺の内乱鎮圧に明け暮れ気づけば三十半ばの独身貴族。武功を積み若くして将軍となり戦場では恐れられた男は大いに悩んでいた。


(ヴァルキュアを可愛がってはいましたが、いつも世話をして泣かせてしまいましたね。キィラをライヴァール家の養女として迎えるのは問題ありませんが子育ては苦手です。キィラの乳母を公爵家で雇うとしても彼女は産休中ですし……やはり母親も必要なのでしょうが今から見合いをして間に合うでしょうか)


 前,侯爵夫人である母親はヴァルキュアを産んですぐに亡くなり、ノーキンス自身も母親というものをよく知らない。父親も貴族にしては珍しく再婚や妾を娶ることもしなかったので年老いた乳母が兄妹を育てたと言っても過言ではない。さらには親類も先の政変や戦争により亡くなっている。そのため現状で親戚と呼べる相手は非常に少なく、それはゼッコロー家にも同じことが言えた。


(仕方がありません。あの方に相談してみましょう)


 ノーキンスはうなされ始めたキィラの頭を優しく撫でた。再び安らかな寝息を立てるまで見守ったあと今後の為に考えた手紙をしたため全ては家族の為にと行動を開始するのであった。






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