エピローグ
「結局なんだったんだろう?」
全てが終わり、インテライト家の晩餐会に招待された康大が、思わず呟いた。
あれから一晩中走り回っていた康太は、宿舎に帰ると同時に泥のように眠ってしまい、気づけばとっぷり日も暮れていた。
生誕祭は国民向けには昼に行われ、夜は来賓相手の晩餐が中心になる。
ザルマも前夜の疲れを考慮してお役御免となり、別の人間がインテライト家の名代として参加した。
他の3人は最初から晩餐会には呼ばれず、ハイアサースはまともに食事がとれなかったことを今でもぐちぐち言っている。
そんなハイアサースを不憫に思ったわけでもないだろうが、康大たちはその日の夜――起きたばかりの康大にとっては早朝のような感覚だが―インテライト家主催の晩さん会に招待された。
康大達の他にもインテライト家に属する貴族達も居たため、4人はまとまって後方の席に座る。
本来なら上座にいるべき活躍をしたのだが、そこはジェイコブが康大の小市民的な性格を理解し、気を使ってくれた。
「なんだったとはどういうことだ?」
向かいに座っているザルマが少し不満そうに聞く。
ここまでのことをしたのに、達成感の感じられない態度と思い切り下座にやられたことが、彼には気にくわなかった。
「いや、そもそも俺は自分のゾン……病気を治すためにここまで来たのに、結局1ミリも進展しなかったなって」
「言われてみればそうだな」
康大とほぼ同じ症状兼婚約者のハイアサースが同意した。
康大と違い、今までそのことを完全に忘れていたらしい。
ではそもそも何故ここまでついてきたというのか。
康大にはその脳天気さが心底羨ましい。
「だがまあこのまま進んで行けば上手く行くだろう。私はそんな気がする」
「そんなロードムービーみたいな……」
「康大殿」
いつの間にか康大の背後に立っていた圭阿が、いきなり話しかけてくる。
今回のメニューは現実セカイには当てはまらないこのセカイ独自のものなので、特に食い意地もはらず少量しか食べていない。
「いきなり驚いた! スープ吹き出すところだったぞ」
「それは申し訳なく。実はつい今し方、ふぉっくすばーど殿より連絡があったようでござる」
「フォックスバードさんから?」
久しぶりに聞いた名前だった。
おそらく今回の事件も彼がその場にいたら、もっと早く解決しただろう。
康大は圭阿に連れられインテライト家のある部屋へと入る。
そこには部屋の中央に巨大な水晶玉があるだけで他には何も無い、本当に現代人には用途不明な空間だった。
少しすると、その水晶玉がわずかにゆらぎ、フォックスバードが中央に姿を見せた。
康大は「テレビ電話みたいなものかな」と思いながら、特に驚きもせずフォックスバードと向かい合う。
『やあひさしぶりだね。初めてこれを使う人間はたいてい驚くけど、君は全く変わらないね』
「俺の世界にも似たようなものがありますから。どうやらこれで、こっちと今まで連絡取ってたみたいですね」
『ああそうさ。ま、使える条件が色々厳しいんだけど、そこは今は重要じゃない。君のゾンビ化を治す為に必要なものがようやく分かったんだ』
「マジっすか!?」
康大は水晶玉に詰め寄った。
その勢いがあまりに強すぎたので、水晶玉が置かれた台から向こう側に転げ落ちそうになる。
康大は未だたまに自分がゾンビの怪力を持っていることことを忘れてしまう。
幸いにも圭阿が落ちる直前で水晶玉を受け止め、事なきを得た。
『ははは、やっぱりこっちの話は冷静じゃいられないみたいだね』
「当たり前です! それで、いったいどこに!?」
『うん、それなんだけど』
何故かフォックスバードはもったいぶってすぐには言わない。
嫌な予感がした。
フォックスバードの笑っている目が、康大に絶望的な未来を予感させた。
康大はつばを飲む。
それを待ち構えていたかのように、フォックスバードは重く、楽しげに口を開いた。
『必要なのはやっぱり薬草だ。それで、それがある場所なんだけど、なんとタイミングのいいことに、今まで君達が戦っていたグラウネシアさ』
「そんなことだろうと思ってましたけど!」
康大の波乱に満ちた旅は、まだまだ終わりそうになかった――。
次回、感染者と死者とチート系勇者とその他大勢(仮)に続く




