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第41話

「とりあえずなんでこうなったのか、分かりやすく説明してくれませんか?」


 戦いが一段落ついた後、康大はマクスタムにそう切り出した。

 辺りには誰もいない。

 何かの流れで2人だけになってしまい、無言でこの武人といると康大としては間が持たなかった。


 しかしマクスタムはつまらなそうな顔をしているだけで、何も答えない。

 相変わらず態度は最悪だ。

 仕方なく康大は頭に先ほど浮かんだことを、とりとめもなく話し始める。


「まずこんな所に兵力配置するなんて、事情を深く知っていなければ出来ることではありません。そうなるとインテライト家がグラウネシアのスパイだったと考えられますが、それならそもそもここで戦う必要がありません。だったら二重スパイという可能性も考えられますが、それならわざわざ俺みたいな部外者に王城内を探らせる理由が分かりません。目立つのはスパイとして致命的ですから。結論として、インテライト家がグラウネシアと関係している可能性は限りなく低いです」

「・・・・・・」

 マクスタムは相変わらず何も言わなかった。

 しかし、話を聞いている気配はしたので、康大は続ける。


「だったら当然こちらの陣営ということになります。ですが、大部分の人は真犯人をエイプル公爵だと思っています。コアテルやアイナもまあ同様でしょう。今夜のグラウネシア襲撃を察知し、かつその場所を予測出来た人間は限られます」

「・・・・・・」

 まるで耳が聞こえないかのようなマクスタムの反応。

 康大は何か独り言を言っている気分になってきた。


「……まずは俺。立場的にはインテライト家の関係者ですし、客観的には一番可能性が高そうな情報元です。けど、言うまでもなく俺は情報なんて漏らしていません。そんなことしたらアムゼン殿下に殺されますからね。となるとアムゼン陣営の誰かということに――」

「もういい」

 マクスタムがようやくため息と共に口を開く。


「お前の考えている通りだ。インテライト家はそもそもアムゼン殿下に仕えていた」


「でしょうね」


 康大は特に驚きもせず、その言葉を受け入れた。


 そもそもスタートからおかしいのだ。

 いくら気に入られたとはいえ、アムゼンがコアテル陣営の自分を、ああも容易く入れるはずがない。

 アムゼンが豪快なだけでなく、周到な人間でもあることはこれまでの付き合いから良く理解していた。

 また、コアテルが没落したというのに、自分達に具体的な指示が何もないのはおかしい。

 アムゼンにインテライト家の取りなしを頼んだ時点では、未だそこまで確信はなかったが、この話をする頃にはほぼ裏の構図を理解していた。


「でもそう考えると、スパイという点は間違いじゃなかったわけか」

「そうだ。貴様らの一挙手一投足は、アムゼン殿下から逐一伝えられている。今回の件もそうだ」

「ちなみに自慢しますけど、ジャンダルム方面に兵士を配置するよう進言したのは俺ですよ。王城にいる兵士を派遣すると、勘づかれる可能性はあるんじゃないかと思ってましたけど、こんな奥の手を使うことは予想外でした」

「つまり俺はお前に顎で使われていたというわけか」

 マクスタムが康大を睨む。

 目を合わせて話すことすら困難な康大は、反射的に顔を逸らした。

 そんな康大の頭にマクスタムは乱暴に手を置く。


「大したガキだよ、お前は」


 そう言って、マクスタムはどこかへ行ってしまった。

 その際頭を下げていた康大には、日に焼けた皺だらけの顔がわずかに笑ってる事に気付くことができなかった。


 少しして康大が顔を上げると、マクスタムの姿はどこにもない。

 そして入れ替わるように仲間達が姿を見せる。


「何かマクスタム殿と話していたようだが……」

「別に大した話じゃないさ」

 ザルマの質問を康大は適当にはぐらかした。

 今真実を説明すれば、根掘り葉掘り聞かれ、色々面倒くさい。仲間達に対する説明は、落ち着いてからでも充分だろう。

 さらに康大は質問に答える代わりに逆に質問をする。


「そういえばジェームスは?」

「ああ、そう言えばいないな。どこにいったんだろうか?」

 知らぬ間に消えていた同行者に、ザルマは首をかしげる。

 他の仲間達に聞いても、誰1人ジェームスの行き先を知っている人間はいなかった。


 圭阿は随分と悔しそうな顔をしたが、康大にはそこまで気にならない。

 ジェームスがグラウネシアとは無関係であることはほぼ間違いない。

 もし他の国のスパイだったとしても、それを気にするのはアムゼンや国王の役目だ。部外者である自分がそこまで気を使うこともない。

 そう割り切っていた。


「まあ王城の方もカタはついただろうし、一件落着かな」

 王城の方を見ながらハイアサースが言った。

 朝日を受ける王城は、激しい戦いが行われたとは思えないほど静まりかえっている。一時期上がった火の手も今は煙すら上がっていない。


 康大もその点に関してはほっと胸をなで下ろす。

 しかし、


「とはいえ、未だ全部終わったわけでもないんだよな」


 安心してもいられない。


「どういういことだ?」

「黒幕が未だ捕まっていない」

「確かエイプル公爵とかいうのが黒幕だったんだろ?」

「いや、だからあれは本当の黒幕を引っ張り出すための方便だと……」

『なんだと!?』

 ハイアサースだけでなく、ザルマもあからさまに驚く。

 どうやらこの2人は、あの時の話がまったく理解出来ていなかったようだ。

 当然のように理解していた圭阿は「はあ」とため息を吐いた。


「な、な、な、それはどういうことだ!?」

「いや、だから黒幕の計画を誘導して、こっちが御しやすいようにするために、わざと偽の黒幕をでっち上げたんだと……。昨日言っただろ?」

「知らなかった……」

 ハイアサースはがっくりと膝を落とす。

 本当にまったく理解していなかったらしい。

 ならばいったい昨日の襲撃は誰が指示したと思っていたのか。

 「リアクションだけで生きてるなあ」と、康大は心の底から思った。


「然れども、黒幕の正体はあむぜん殿下もご存知のはず。康大殿がすることはもはやないのでは?」

「それなんだよなあ」

 康大はため息を吐きながら答える。

 これから話すのはとにかくうんざりする内容だった。


「アムゼン殿下曰く、確固たる証拠がなければそいつを黒幕と認めることは難しい、そうだ。まあ状況証拠だけしかない以上仕方なくはあるんだけど、ここまで動いてくれたら認めてくれても良い気がするんだよなあ」

「じゃあどうするんだ? いつものように後はご自由にで逃げるか?」

「あのなあ」

 挑発するような台詞を皮肉ではなく心から言っているハイアサースに、康大は再びため息を吐く。

 この婚約者はいったいいつになったら完璧に空気を読んでくれるのだろうか。


(まあ日本人が空気読み過ぎなところもあるんだけど)


 どちらかに分類しなくともひねくれ者のグループに入る康大でもこれだ。

 康大は何か、悲しくなってきた。


 それはそれとして、質問には答えなければならない。

 これは康大だけの問題でもないのだ。


「何故か俺が今回の責任者に祭り上げられて、しかも事が完全に収束するまで王都から出られないという、非常に面白い事態になってる。やるしかないんだよなあ……」

「ならばどうする?」

「そうだな……」

 ザルマの言葉に康大は少し考えてから答える。


「まあ今までずっと考えてた策はあるんだよ。ただそれをするためには、どうしても確認しなくちゃいけないことがある。なあ圭阿」

「なんでござるか?」

「ちょっと前に聞いた話で確認したいことがあるんだが――」

 そう前置きして、康大は圭阿に耳打ちする。

 圭阿はふむふむと聞いた後、


「確実とは言えませぬが、まず問題はないかと」


 康大の何らかの確認を肯定する。

 しかし康大には()()()()()()()()


「命に関わることだ、出来れば完璧に確認したい。どうにかできないか?」

「然らばこれを使っては如何でしょう」

 そう言って圭阿は薄い懐から紙折を取り出す。


「それは?」

「ふぁじーる草を粉末にしたものでござる。こうすると、超人的な能力は失われますが、その分毒性も薄れます。これなら色々と都合がいいでしょう」

「都合、ねえ」

 康大は苦笑しながらそれを受け取る。


「黒幕にでも使うのか?」

 ザルマが特に非難する様子もなく聞いた。

 ここまで好き放題された相手には、騎士道もなりを潜めるらしい。

 しかし康大は首を振る。


「いや、最初に言ったろ。確認したいことがあるって」

「え……ああ!?」

 そう言うと、康大は皆の目の前でファジール草の粉末を豪快に口に流し込むのだった――。

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