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第37話

「疲れた……」

 日もとっぷり暮れた頃。

 康大は疲労を両肩に抱えながら、寄り合い所という名の酒場に向かう。

 皆が酒場にいることは、ライゼルから聞いていた。

 いちおう重要人物の関係者というだけあって、それなりの警護はしてくれていたらしい。

 ただしそれも今回の大捕物の片手間で、康大としては全員の顔を見るまでは安心出来なかった。

 そのためにこうして睡魔に冒された身体に鞭打ち、わざわざ来たのである。


 酒場に入ると、以前に来たときより更に活気があった。

 いや、活気と表現するのは語弊があるかもしれない。


 これは動揺だ。

 誰も彼もが今日あったその捕り物について話していた。

 幸いにも、というべきか康大はその最前線には立たず王城に籠もっていたので、誰も責任者とは気付かなかった。


「こっちでござる」

「ああ」

 圭阿に声をかけられ、康大はそのテーブルに座った。

 席には圭阿の他に教会から戻って来たハイアサースとザルマ、そしてクリスタがいた。

 ハイアサースは黙々と食事をし、ザルマとクリスタはテーブルに突っ伏して仲良く眠っている。まるで家族のようだ。

 とりあえず全員無事でいたことに、康大はほっとする。


「まずは拙者の方から話が聞きたいのでござるが、如何か?」

「かまわないさ」

 康大も適当に注文を取りながら答える。


「聞きたいのは言うまでもなく今回の捕り物の件でござる。何故あのような?」

 具体的な内容までは圭阿は触れなかった。

 たとえ喧噪につつまれた酒場でも、どこで誰が聞いているか分からない。中には康大がグラウネシアの件の責任者だと知っている者もいるかもしれない。

 今は慎重の上に慎重を重ねても無駄にはならなかった。


「そうだな。……うん、そうなったとしか」

 康大も圭阿の意を汲んで、具大的には言わない。


「そうなった、でござるか……」

 それから2人は黙り込んだ。

 ザルマとクリスタのいびきと、ハイアサースの食事音だけがこのテーブルの音源だ。

 そのために他のテーブルの話が良く聞こえた。


「なあ、ついにグラウネシアに内通してた黒幕が捕まったらしいぜ。今王城じゃすっかり浮かれムードで、来賓相手にした前夜祭みたいなこともしてるらしいな」

「あーそれな、なんでもアムゼン殿下が全体の指揮を執ったそうだが」

「まあ元からコアテル殿下が失脚したんだから、あの方が次期国王で確実だが、こりゃ箔もできたな。いくら殿下とはいえ浮かれて当然さ。しかし馬鹿な奴だ。陛下が衰えたからといって、殿下が健在のうちに内乱を企てるなんてな」

「ああ、本当に馬鹿な奴だ、あの――」


『エイプル公爵はな』


 隣で酒を飲みながら話している、兵士ふうの2人が声をそろえて言う。

 圭阿は今までその話を散々聞いていたので、驚きはしない。驚いたのは初めて聞いた際の、最初の数秒だけだ。

 しかし、食事を終え一息ついたハイアサースはその話を初めて聞いたようだった。


「あれ、それって以前コータから聞いた話と違うような……」

「ああ違うな」

 康大はこともなげに肯定する。

 ハイアサースの地声はそこまで大きくもないので、圭阿も特に注意したりはしなかった。


「ま、状況が変わったんだ。俺は身分的に見れば下の下だからなあ」

「うーむ、なんともやるせない話だ」

 ハイアサースは腕を組み、残念そうに呟いた。

 彼女も以前と違い、この場で大騒ぎしないけどの分別はついていた。

 ……腹が満たされ、精神的な余裕が生まれただけかもしれなかったが。


「ところでみんなはなんで酒場に? てっきり、外の様子でも観察してると思ってた」

「ああ、それは例のジェームスに頼まれたんだ。ここを見張るようにってな。ていうか、お前はなんでジェームスが来ると分かったんだ?」

「ああそれか。別に難しいことじゃないさ」

 康大は苦笑しながら言った。


「あの2人は他に仲間がいるようには見えなかった。もし本当はいたとしても、2人だけと思わせたかったと思う。で、前者の場合なら人手が足んなくて、頼れるのは俺達だけ、後者の理由でも頼ってる姿を見せてそう思わせたいんじゃないか、そう考えたんだ。まあ圭阿を出し抜くほどの手練れだったから、手の内は絶対に見せないだろうけど」

「むむ……」

 圭阿が顔をしかめる。

 しかし、実際に接近に気付くことができなかったのだから、反論はしなかった。


「康大はアイツらが何者か察しはついているのか?」

「さあ」

 康大は適当に答えた。


「さあってお前……」

「別にはぐらかしたわけじゃない。本当に誰の手先かは想像がつかないんだよ。ただ、アイツらとグラウネシアは無関係だってことはほぼ間違いないと思う。だからこっちも協力する気があると思わせるように、ああ言ったんだ。その分こっちも色々させてもらったけどな」

「なんだそれ!?」

「はいあさーす殿、そろそろ声を落とした方が」

「おっとすまない」

 ハイアサースは圭阿の指摘に素直に謝る。

 少し熱が入りすぎていたようだ。

 康大としても()()に触れるような内容なら注意もしたが、()()()()にあえて口は挟まなかった。


「それで、これより如何なさるのでござるか?」

「とりあえず王城は他国の来賓が大勢来てるからもう使えない。その変わり別の棟に宛がわれた部屋があって、そこは全員が泊まれる広さだから、今日はそこでおやすみ。最後の夜くらい全員一緒の部屋もいいだろ。そいで明日は観光客気分でせいぜい生誕祭を楽しむさ」

「うーん、納得出来るようなできないような」

「ま、それでも今は納得しろって事。それじゃそろそろここから出るか。ザルマ……とついでにクリスタさんも連れていこう」

「このご老人もか。何か妙に気になるが……まあいい、どれ」

 ハイアサースがクリスタをおぶる。

 こういう行為は地元の村で慣れているのか、よどみがない。

 一方圭阿はザルマをおぶるのではなく、


「起きろ役立たず」


 例によって頭頂部に、キツい一発をお見舞いした。


「ふご!?」

 並の人間なら気絶するような一撃で目を覚ましたザルマは、慌てて周囲を見渡す。

 そんなザルマの頰に平手打ちの第二撃。


「落ち着いたか?」

「はい」

「ならばよし、ここから出るぞ」

 一切文句も言わず、いいなりに行動する変態(ザルマ)

 流れるような2人のやり取りを酒場の客達は、呆然と見ていた……。

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