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第9話

「遅いぞ」

「悪い悪い」

 康大はザルマに平謝りした。

 あれから3人はそれぞれに用意された部屋で服を着替え、こうして再び集まった。

 到着したのは康大が最後で、圭阿とザルマは既に王城へ向かう馬車の前で待っていた。

 ザルマはさすが拝謁に耐えうる家格の人間だけあって、絢爛な飾りだらけのスーツと白い長ズボンの、いかにもな貴族ルックで、それが様になっていた。

 一方圭阿は、


「・・・・・・」


 かなり胸のあいたレース刺繍の青いドレスを、顔を赤くしながら着ていた。

 肌を見せることが恥ずかしいのではなく、やたら胸に入れた詰め物が屈辱なのだろう。圭阿のように凹凸がない体型でこういうドレスを着ると、どうしても詰め物が必要になる。胸がないとあまりに見栄えが悪すぎるのだ。

 たとえ本人がそれを理解していても、屈辱であることに変わりは無い。

 とはいえ、ザルマ同様ドレスコード的には全く問題ない。


 問題は康大だ。


 康大の場合、身体が身体であるために着替えを侍女に任せることは出来ない。アビゲイルの魔法で顔は誤魔化せても、身体は元もままだ。

 そのため、侍女の勧めを丁重に断り、自分一人で服を選んだ結果、


「それにしてもお前はなんだ、葬式にでも行くつもりか?」


 そんな格好になった。


 康大が選んだのは上下が真っ黒のスーツに白いシャツで、それが社会経験に乏しい康大が想像した、おしゃれで貴族的な衣装であった。

 頭の中にある燕尾服が、間違ってアウトプットされた姿とも言えた。


「え、これちゃんとした格好じゃないの?」

「葬式ならな。元からお前の顔はひどいが、それに輪をかけてひどい格好だ。今すぐ戻れ、俺がお前の服を見繕う」

「え、あ、え……」

 康大の返事も聞かずに、ザルマは強引に屋敷に康大を連れて行く。

 圭阿は一瞬何か言おうとしたが、結局何も言わなかった。

 残念ながら、ことファッションに関しては彼女も康大と大差ない。


 それから十数分後――。

 派手すぎる赤い上着に提灯のように膨らんだ半ズボン、白いタイツを穿いた恥ずかしげな康大と、自信満ちたザルマが戻ってくる。


「この歳でこんな学芸会みたいな格好をさせられるなんて……」

「お前みたいな地味な奴は、それぐらい派手で丁度良いんだ。さっきの格好で行って見ろ、インテライト家の格まで下がる」

「俺の自尊心は既に地の底まで下がったけどな……」

 がっくりと肩を落としながら馬車に乗り込む康大。


「お前ら遅いぞ!」

 そんな時、手が空いたのか、ハイアサースが様子を見に来た。

 もし事前に気付いていたら、康大はこの惨めな姿を見せないよう馬車内に隠れただろう。


「あ……あ……」

 康大は言葉に詰まり、何も言えなかった。

 現代人が見ればピエロのような自分を、真っ向から美しい婚約者に見られてしまう。

 あまりの情けなさに、泣きそうになる。


 しかし――。


「ほう」

 ハイアサースは康大の格好を見ても笑ったりはしなかった。


 それどころか、


「お前もそれなりの格好をすれば、まあ見られるようになるな」


 彼女なりに褒めてくれた。

 笑われると思っていた康大は呆然とする。


「えっと……」

「人間は外見ではないと思うが、やはりできるなら外見も立派にした方がいい。これからは気をつけるんだな」

「あ、ああ……」

 康大は呆気にとられながら頷いた。

 やがてガンディアセに呼ばれ、ハイアサースは邸内に戻っていく。


「どうした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「いや、自分のファッションセンスが絶望的に信じられなくなってきて……」

「お前には元からそんなものなどないだろう」

「・・・・・・」

 ザルマの言葉に、今回ばかりは康大も全く反論できなかった。

 お互いの世界の美的感覚に違いがあると分かってはいるが、「葬式に行くのか」という批判は、現実セカイでも通じる文句だ。康大には喪服と礼服の区別など全くつかない。


「はぁ~」

 康大のため息も運びながら馬車は出発する。

 圭阿とザルマは元々王都にいたのだから景色を楽しもうとは思わず、康大もそんな気分ではない。

 結局中世ヨーロッパ風の煉瓦造りの家々や、石畳に施された精巧な細工など一切顧みられることもなく、一行を乗せた馬車は特に何も無いまま王城へと到着した……。

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