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――プロローグ――

 「あれが王都か……」

 康大は船から見える光景に眼を細める。

 王都もそこまで栄えているわけでもなく、砂浜には掘っ立て小屋と干している網が並び、停泊している船も漁船ばかりだ。

 実際に、忙しそうに漁師達が動き回っている。

 まあ異世界の都会なんてこんなものだと思っていると。


「いや、あれはただの漁村でござる」

 圭阿が即座に突っ込む。


「あれ、このまま王都に行くんじゃないのか?」

「さすがに海賊船が王都に直接行ったら、撃沈されまさあ」

「言われてみればそうだな」

 海賊の言葉に康大は頷く。

 このあたりは康大も未だ元のセカイの感覚から抜け出せなかった。

 言うまでも無く、国が国なら元のセカイでも撃沈されるが。


「この漁村は昔からよく使ってるんで、問題なく降りられます。これでお別れなのは残念っスけど、帰りも是非俺達を頼ってくだせえ! 漁村にいる渡役に連絡してくれたら、何をおいてもお頭の元に駆けつけまさあ!」

「あ、ああ、ありがとう……」

 いつまでお頭扱いなんだろうと思いながら、康大は感謝した。


 やがて船は浅瀬まで近づき、漁村からは迎えの小舟が来る。

 海賊は漁師らしき男に幾ばくかの金を渡し、その後康大ら4人はその小舟に乗った。


「あんたらどう見ても海賊には見えねえなあ。どっかのお偉いさんかい?」

「まあそんなところです」

 正直に答えるのも面倒なので、康大はおざなりに答えた。

 それから小舟が漁村に到着すると同時に、物売りのような子供達が康大達に群がる。こういう反応は日本と言うより、発展途上国を連想させた。


 全員が小舟から下りたところで、姦しい子供達に囲まれながらこれからの方針について相談する。

 ただ、話し合うのは康大と圭阿だけだ。

 再び鎧を着たハイアサースとザルマは、鎧についた海水を布でそぎ落とすのに必死だった。海水をつけたままにしておくとサビが早くなるのは、康大にも理解出来た。

 尤もこの2人は話に加わったところで、大して役に立つとは思えなかったが。


「それで圭阿、これからどうればいいんだ?」

「当然このまま王都に向かうでござる。この漁村は王都からふぉっくすばーど殿の所に行く途中も通りました。ここから出ている街道を進めば、王都はすぐでござる」

「王都か……」

 康大にとって王都はそこまで憧れている場所でも、望んでいた場所でもない。あくまでのこの国の中心地という認識で、ここに来たのもほぼ成り行きだ。

 それでも心の中には、こみ上げてくるものがある。

 これから王都で待っている出来事を想像すると、


(絶対碌でもないことだろうな……)


 絶望的な気分になる。

 出来るなら平穏無事にこのゾンビ化を治し、その後このセカイに残るか、元の世界に戻るかを考えたかった。

 元のセカイの惨状を考えると、何が何でも戻りたいという気にはなれない。何よりこのセカイには婚約者(ハイアサース)がいる。

 現実セカイでは絶対に縁の無い、巨乳金髪「くっ殺」女騎士もどきが。

 目下のところ自分の身体が一番だ。

 危険なことはできる限り避けたい。


「でも行くしかないんだよなあ」


 それでも断固とした態度で嫌とは言えない。

 もしそんなことを言えば、また圭阿に暑苦しいほど説得されるし、何より幽霊船での一件が完全な徒労に終わってしまう。

 何よりそんな空気の一片も読まないような台詞は、康大には言えなかった。

 康大としては他の人間が逆に空気を読んでくれないかなと、願うばかりだ。


「まああり得ないけど」

「康大殿?」

「ん、ああ、なんでもない。それじゃあとっとと王都に行こう」


 嫌なことは避けるのではなく可能な限り早く終わらせるに限る。

 現実セカイにいた時、康大は常にそうしてきた。夏休みの宿題も7月中に終わらせたし、嫌いな給食もとにかくすぐに食べた。

 現状厄介ごとは終わったそばから次々と訪れ、おそらく今回もそうなるだろうが、康大はそこには目を瞑り、再び憂鬱なその一歩を踏み出すのだった……。

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