第84話 三武神3
夜が来る。
ハスキーはいつも通りに見張り番をしながら刀を抜く。
しばらく経つと、三人の女性が現れ稽古をしてくれる。
ハスキーの腕前はどんどん上達していった。
しかし紫鸞へは一つも当たらない。
真剣のために手心を最初は加えていたものの、ハスキーの方でも当たらないので必死に刀を振り回していた。
「そらそら。鬼さんこちら。手の鳴る方へ。ほほほほ」
「くそう。今日こそは!」
しかしひらりと身をかわし、空中へとひと回転したと思うと、後ろへ回り込み掌底打を喰らわせてまたもや笑う。
ハスキーの方でも火が付いてしまった。
「いくぞ! シャイニングブレイク!」
大きく回転し光の波動を飛ばす勇者の技。紫鸞は驚いて避けるのが遅れた。
結果光の攻撃に当たってその場に倒れ込んでしまった。
「おやおや。無縫。介抱しておあげ」
「は、はい。玉龍さま」
無縫は紫鸞へ近づいて回復魔法をかけると、紫鸞は長いまつげを揺らして目を覚ました。
「ふぅ。勇者の技とは驚いた。玉龍さま。ハスキーはなぜ勇者の技が使えるのです」
「勇者はユーク一人。しかしそれは人の子の光の勇者。ハスキーはコボルドの救い主。勇者でなくとも勇者の技が使えるのですよ」
「わ、私がコボルドの救い主……?」
「そう。女神リフィトに出会い目覚めし救い主」
玉龍が話している間に、無縫と紫鸞は消えてしまう。
そちらに目をやって視線を玉龍に戻せば今度は玉龍が消えている。
「なんということだ。なんという」
ハスキーは跪いて朝が来るまで三人がいた場所を見つめていた。
次の日の朝食。みんながドヤドヤと起きだしてくる。
ハスキーが寝る番だ。
ミューが全員の食事をこしらえている、その横でシロフとちび勇者ユークがおいかけっこをしていた。
ハスキーは疲れていたのでぼうっとそれを見ていたがあることに気づく。
「ボーズ」
「なに? おじたん」
近づいてくる勇者の兜にあるフェニックスの尾羽。
それが少しだけ削れている。
「どーしたの?」
次に手に取った聖者のマント。
しげしげと見つめると、それは神からの贈り物だ。縫い目がまったくない。
青と赤色の布地はどうやって表裏となっているのか分からない。
「縫い目が無い。まさに無縫だ」
「ん?」
「いやこっちの話だ」
ちび勇者はきょとんとした顔をしていたが、やがて遊びに戻る。
ハスキーはガチャガチャとなる聖剣グラジナを眠い目をこすりながら見ていた。