第83話 三武神2
そして夜。焚き火の前に座ってハスキーは見張り番をしている。
やがて刀を抜いて、やや上達した刀術の稽古を始める。
静かな夜だ。辺りに魔物の気配はない。
エグラストーンが魔物を寄せ付けないと言うこともあるが、稽古には適した夜だ。
焚き火の揺らめき。ハスキーがそちらに目をやると果たして三人の女神のような女性が笑顔で立っているので、すぐさま平伏した。
「玉龍さま。無縫さま。紫鸞さま」
「あらあら。殊勝な心掛けだこと」
「私の未熟な腕前を本日も鍛えて下さいまし」
「ほほほ。そのつもりで来たのよ。そら。紫鸞、相手をしておあげ」
「はい。玉龍さま」
再び始まる夜稽古。
紫鸞の手合わせに、無縫の指導。それを玉龍はにこやかに見ている。
しかし玉龍はなにもしないわけではない。ハスキーのスキや切っ先のブレなどわずかなところも見逃さずに注意する。そうかと思えば良い場所は良いと褒めるのだ。
ハスキーもそれに素直に従った。
ハスキーは息荒く汗だくだが、女たちは汗一つかかない。
これも能力の違いなのだろうとハスキーは修得に心掛けた。
やがて朝がくる。すでに玉龍の姿はない。
「ぎ、玉龍さまは?」
「ほっほっほっ。集中しなさいな。そうでなくては修業になりませぬ」
「そ、そうでした」
紫鸞の言葉に必死に紫鸞へと向かって斬りかかる。
その間に無縫も居なくなっていた。そちらを気にすると、紫鸞の掌底打がハスキーの長いアゴ先へと当たる。
アゴ先は急所だ。痛がって目を瞑ると、開けた先には紫鸞も消えていた。
辺りを見回してもその影もない。
疲労からハスキーは大きくため息をつきながらたき火の前に腰を下ろす。
「まただ。一体どこから来てどこに行ってしまわれるのだろう」
焚き火の炎はすでに小さくなりかけており、ハスキーは火種になりそうなものを火種入れにしまった。