第82話 三武神1
最近の夜はハスキーの見張り当番となっている。
シロフが日中馬車を動かし、ハスキーが夜の見張りをするのだ。
皆が寝静まった頃、ハスキーはおもむろに立ち上がり、刀を抜く。
そして素振りだ。
ハスキーだって戦闘を習った達人だ。
しかし技もなにも持ち合わせていない。
子ども勇者ユークに頼りきりだ。それではいけない。
鍛冶屋の神バンガンスに鍛えられた刀に主として認めて貰い以心伝心の関係になる。
そのために剣術を我流で磨いていたのだ。
ハスキーが名付けたレッドサーディンと言う刀。
これに慣れたい。誰も教えてくれないから荒削りだがとにかく夜の間中、刀を振り回していた。
「ふふふ」
「ほほほほ」
奇妙な笑い声に稽古を中断して振り返ると、美しい人間の女性が三人立っている。
こんな時間にこんな場所に女がいるわけがない。
これは神の類いのものであろうとハスキーは刀を鞘へと戻すが柄には手をかけていた。
それもそのはず。これが良い神なのか悪い神なのかは分かっていない。悪い神なのであれば戦闘になるかも知れないのだ。
「こんな夜更けにどなたです?」
三人はそれに笑うばかり。
女性の服装はドレスではない。軽装の鎧のようだ。
中央のものは金色。右側は青と赤。左側は紫と金。中でも中央のものが上位に立つような雰囲気だった。
「まるで下手クソだわ。それでは止まっている人形も倒せない」
「ほほほほほ」
「うふふふふ」
その言葉にハスキーはムッとする。
もう一度刀を抜いて稽古をし始めた。だが笑い声が気になって集中が途切れる。
「なんなんですか。あなたがたは」
すると金色の女性が紫と金の女性を呼ぶ。
「紫鸞」
「はい」
「相手をしておあげ」
「はい玉龍さま」
紫鸞と言う紫と金の鎧を纏った女性は色っぽく腰をくねらせながらハスキーの前に立つ。しかし武器は持っておらず構えるだけ。
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
「いいからおいで」
と紫鸞は手を振って挑発する。ハスキーの方でもどうにでもなれと刀を振りかぶって紫鸞へと叩き下ろすが内側に入られその手は取られて空中に放り投げられていた。
ハスキーの体が無惨に地面に衝突する。
悔しそうに身を起こすハスキーをまだ笑う3人。
「無縫」
「はい」
「教えてあげなさい」
「はい玉龍さま」
無縫と呼ばれる青と赤の鎧を着た女性は、ハスキーの手を掴んでお越しざまに回復魔法をかける。
「なっ……」
「むやみやたらに振ればいいってもんじゃないわ。ほら構えてご覧なさい」
言われるがままハスキーは刀を構える。
「肩に力が入りすぎてるわ。ほらだから切っ先がぶれるのよ。握り方も雑ねぇ。こうよ。こう」
無縫はハスキーの手を取って構え方を伝授する。
「な、なんか刀が軽い」
「さもありなん。これが刀を構えるという事よ」
「おお。ありがとうございます!」
それから、女たちはしばらくハスキーに稽古をつけていたが夜明けが近づくと一人消え、二人消え。
手合わせをしている紫鸞を残して居なくなってしまった。その紫鸞も両手を頭の後ろに組むと退屈そうにあくびをして馬車の後ろへと消えてしまった。
「紫鸞どの?」
ハスキーが馬車の後ろに回っても誰もいない。夜も白々と明けてきた。
「はぁーー。不思議な人たちだ。しかし腕前は確かだ。また来てくれるだろうか?」
ハスキーはよほど疲れたのか、荷台で高いびき。その間にシロフの運転する馬車は東の都へ向けて進む。