第81話 ピクシーニンジャーズ2
ちび勇者を乗せた馬車の進行方向の遥か先。
その街道に三つの影。
「オレはピー」
「オイはクー」
「オレはシー」
「三人合わせて、オレたちゃピクシーニンジャーズ。んーわぉー!」
今の勇者と同じくらいの背格好。黒装束に身を包んだ子鬼のピクシーニンジャーズ。登場のポーズがビシッと決まる。
三人の前には大きなバツ印。それぞれが園芸用のスコップを持っていた。
「ふっふっふっふ。何も知らない勇者一行は我々の作った落とし穴に落ちて一網打尽」
「その通り。落とし穴には鋭い竹槍も並べておいて、全員が串刺しになる」
「水ももらさぬ計画。ここがやつらの墓場となるのだ!」
しかしまだそこにはバツ印しかついてない。
落とし穴はこれから掘るのだ。
「さて8回目の休憩をしよう」
「そうだな。もう勝ったも同然なんだから」
「今回のおやつはバッタの丸焼きさ」
こんがりと焼かれたバッタの香ばしい香りに三人はよだれを垂らす。
「ムシャムシャ。うーん。このプリプリした肉感はどうだ」
「最高だね。最高」
「次回は天ぷらもいいなぁ」
名残惜しそうに刺さっていた串までしゃぶった後で三人は目をこすり合う。
「お腹が膨れたら眠くなってきたな」
「オイが布団を干しといたであります!」
「お。でかしたぞクー」
干し草を編んで作った布団にゴロリと三人は横になる。
目を覚ますと、大ガラスが山を指して飛んで行く。
「あ。一番星見ーつけた」
「どこどこ?」
「どれ。夕飯の準備をするか」
草の実をすりつぶした団子を沸騰したお湯の中に入れて、甘いタレをかけたものをシーが作る。それを三人は味わった後で日も落ちたので草と枝で作ったテントに入り込む。
「今日の作業日報書かないとな」
「落とし穴作戦順調ナリ。と」
「さてさて。灯りを消すぞ。また明日。お休みー」
次の日もその次の日もそんな調子。
山の中で大きなフルーツを見つけたので、シーは保存用にドライフルーツ作った。
その間に落とし穴はバツ印の周りを少し掘っただけだ。
「竹槍も準備しないとな」
「じゃ、竹を切りに行かないと」
「そう言えばこの前、竹林を見つけたっけ」
シーが見つけたという竹林を目指して三人は山の傾斜を登った。ふと振り返ると、山から見る景色の素晴らしいこと。
「おー! 絶景かな。絶景かな」
「あれ。馬車が山の下を走っていくな」
「勇者たちの馬車じゃね?」
そう。まさしくシロフが運転する馬車であった。
「おいおい。見ろよ。落とし穴のあるバツ印のところへ向かっていくぞ」
「ホントだ。そのまま行け行けー!」
「ここでヤツらが落とし穴に落ちるのを見学だ!」
しかし掘られていない落とし穴に落ちるわけがない。
馬車はそのまま通り過ぎていってしまった。
「「「あれ?」」」
すっとんきょうな三人の声。
掘っていない落とし穴に落ちるわけがない。
しかし三人は不思議そうにいつまでも首を傾げていた。
山肌が夕日に染まるまで。
「ああ。お腹がすいたなぁ」
「トンボをとって丸焼きにするであります」
「そうだな。そうしよう」
三人の晩ご飯はどうやら決まったようだった。