第80話 覚醒のレッドサーディン
東の都へと急ぐ道中。
ちび勇者はハスキーご運転する馬車の隣。
ミューは馬車の中で繕いもの。シロフは荷台で眠っていた。
「しかしボーズの聖剣グラジナはやはりスゴいな。自分で動いて攻撃できるんだからな」
「うん。スゴいだろ~」
「オマエは憎らしいけどな」
「あのね~。グラジナはボクの師匠なんだ」
「へぇ。そうか。本当はドラゴンだもんな。ドラゴンでも高位な神に近い存在か。師匠とはスゴいな」
「うん。剣も魔法も教えて貰った~」
「ほぅ。じゃ全ての先生か」
「うん。おかあたんが死んじゃってからはご飯も作ってくれた~」
「スゲェ。何から何まで万能なんだな」
「でも他の人間の前では剣の姿じゃ無きゃダメなんだって」
「なるほどな。そう言う縛りもあるわけか」
馬車は進む。人家など何もないが、勇者はまた道の先を指差す。
そこには小石が落ちているだけだ。
「あ。妖精だ」
「ほう。じゃ追いかけないとな。今度こそちゃんとした宝ならいいが」
ハスキーは後ろの座席に座るミューを呼ぶ。
三人がそろって走り出すと、小石はコロコロ転がって行く。
そのうちに小石はまとまって小さなストーンゴーレムのような姿に。
それが向かった先には、炉があって上半身裸の男が金槌をもって座っていた。
「あ。神様だ。ん〜と」
ちび勇者は知っているようだった。神様のほうでも気付いて気さくに声をかけてくる。
「やぁ〜ユーク。見ないうちに縮んだな」
「うん。神様のお名前なんだっけ」
「鍛冶屋の神のバンガンスだ。前に聖剣を鍛えてやったろ?」
「うん。そうだった」
生き物である聖剣すら鍛えられる神。
いかにも体育会系の匂いがする。胸毛も腕毛も男らしいがミューは目のやり場に困った。
「勇者よ! 先の約束に従い、虹の鎧を鍛えに来たのだ。さぁ鎧を出せ」
「ないよ」
「ない? 近くにおいてあるなら持ってこい」
「近くにもないよ。おねえたんのおウチにあるもの」
鍛冶屋の神バンガンスは大きな手で顔を覆った。
「おいおい。世界の至宝を置いてくるなんてどうかしてるぞ」
「だって、おウチの留守番なんだよ」
「ふむぅ。空き家になると魔物が入り込むかもしれんという計らいからか。気に入った!」
すぐに納得してしまう鍛冶屋の神。
しかし気さくなよい人のようだ。
「しかし何もなく空しく帰ると言うのもなんだな。ん? そこのコボルド」
「は、はい。私ですか?」
「そうだ。その方が持ってるその刀を見せてみろ」
「は、はい」
ハスキーが刀を渡すとバンガンスはそれの抜き身を晒した。
柄の部分も引き抜いてしまい、太陽にそれを晒す。
「ふむう。無銘だが鈍刀ではない。錆びているが鍛えれば光る名刀だ」
「ほ、本当ですか?」
「うむ。暫時待てい」
バンガンスは炉の火をおこし、そこにハスキーの刀を入れて真っ赤に焼き上がったところを金槌で鍛え始める。
高い金属音が辺りに響く。
ちび勇者とミューは野原で遊び、ハスキーはバンガンスの仕事を見ていた。見違えるようにハスキーの刀に光が宿る。
「す、すごい!」
「うむ。ワシの技術もあるが、この刀は相当な力を隠していたようだな」
始める前と同じように太陽に晒すと、前とは違って輝きが神々しい。バンガンスはそれを鞘へと戻し納まる場所へと帰した。
ハスキーは自然とひざまずいてうやうやしくそれを受け取った。
「後は刀の方がその方を主と認めるかだな」
「刀の方が?」
「さよう。勇者のグラジナのように、以心伝心の関係になるのだ。その方には素質がある」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ。達者でな」
「は、はい」
ハスキーが見ている中、鍛冶屋の神バンガンスは徐々に消えてゆき、最後には全く見えなくなってしまった。
ハスキーは鍛えられたばかりの刀を腰に納めると、今までとは違った重さを刀から感じ、あの錆び刀に頼もしさを覚えたのであった。