第79話 変態勇者7
今まであった戦闘よりも困惑した。
「間違えた。スペシャル肩車がいいんだった」
「やっぱり話し方がおかしい」
「こいつ、実は体だけ子どもで中身は大人の勇者なんじゃねぇか?」
ハスキーの鋭い予測。勇者は全身汗だくだ。
「昨日、神からの贈り物である白い煙は、大人の勇者にするものでこいつ子どもの振りをしてるんじゃねぇか?」
鋭すぎる。ハスキーは全て知っているのではないかと汗をかきながらそちらを見る。
「しかし隊長。ユークどのならそう言うことを正直に言うんじゃないですか? それともなにか伏せなくてはいけない理由が?」
「あッ」
ミューの思い立ったような言葉に勇者は大きく体を震わせる。
「チューしたいって……」
「わーー!!」
「うるせぇぞボーズ! ミュー。それで?」
ミューの言葉を打ち消そうと叫んだが、ハスキーの叱責。
これ以上ミューに言われたら恥ずかしくて死ぬかも知れない。
勇者は真っ赤な顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「コイツ絶対なにかやったな?」
「いえ何もされてないけど」
助かったと思い顔を上げるが、ミューの方ではまだ言葉の途中だった。
「おっぱい飲みたいって」
「わぁ!!」
巨人のこん棒に殴られたような衝撃。
勇者はその場にゴロゴロと転んだ。
「コイツ大人じゃなくてもサイテーだ!」
立ち上がれない。顔を上げられるはずもない。
三人の足元に転げたまま動けないでいた。
「おいボーズ。オマエ今は大人か? 子どもか? 正直に言え!」
言ったらミューに嫌われる。ただのスケベだとバレてしまう。
勇者は逃げ出したかったが逃げられるはずもない。
「おいボーズ! どうなんだ!」
そのハスキーの言葉にスッと上げた顔はいつもの緊張感のない顔。
「あ~。みんないる~。ねぇあそぼー!」
そう。ちょうど大人の頭脳の期限がきたのか、勇者が願って神々が助けたのか、極度のストレスで幼児退行したのかは分からないが、勇者は元のちび勇者へ戻ったようだった。
しかし三人はまだ疑わしき顔。
それに気にせず、勇者はお尻を押さえて草むらへ走り出す。
「ボクウンチ。おねえたん。見ないでね」
そう言いながら草むらに入って用を足しに行った。
犬と同じ嗅覚を持つコボルドのハスキーとシロフは鼻を押さえた。
「どうやらいつものユークどののようですな」
「いやまだ分からんぞ? ミューにイタズラしようと正体を隠しているのかもしれん」
しかし勇者は子どものままだった。ミューに手を引かれて馬車へと戻り、隣で奇妙な歌を歌い出す。
ハスキーも最初は隣に座って注視していたがどうやらホンモノらしいので荷台に戻って眠りについた。
これで勇者とミューは二人きり。
勇者はまた機嫌良さそうに歌を歌っていたがミューが声をかける。
「勇者さま」
「ん~?」
「……おっぱい飲みたいですか?」
「えー? うーんと。うーんと。恥ずかしいなー。ボク」
その姿にいつもの勇者だと思いホッとするミュー。
彼に近づいてその頬にキスをした。
「わぁ。おねえたんにチューしてもらったー」
「いつでもいいですよ」
「なにが~」
「チューしたくなったら、いつでも」
「くふふ~」
「ふふ」
勇者たちの旅はまだまだ続く。