第75話 変態勇者3
ハスキーは得意の鼻を頼りに鳥モンスターの群生地へと向かう。
ちび勇者ユークはハスキーの踏んだ草の跡を踏みながら進む。
ハスキーは静かにするように指を立てると、素早く群生地の中へ躍り込み、卵を数個拝借して懐へと入れる。
鮮やかな腕前。やはりハスキーは頼りになるとそれに見入っていると、そこに怒った鳥モンスターがハスキーの頭上に迫っていた。
勇者はとっさに指を結んで魔法の言葉を唱えると、標的の鳥モンスターに向かって指さした。
「ボル!」
炎の玉が鳥モンスターを襲う。ハスキーはその音に驚いてすぐさま離れて難を逃れた。
鳥モンスターの方でも多少ダメージはあったものの目眩まし程度の技だったのでハスキーを見失っただけのようで、辺りを見回してまた飛び上がっていった。
「ハスキー! 無事か?」
「ああ。大丈夫だ。しかし何か変だぞ?」
「なにがだ?」
ハスキーは懐から卵を一つ取り出して勇者へと渡す。勇者はそれを受け取ったものの合理性が感じられず不思議そうな顔をしていた。
なぜ一つ卵を渡したのであろう。懐にまとめて入れておけばいい話だ。しかしハスキーはその様子を逆に不思議に思った。
「オマエいつもだったら自分から、タマゴ持ちたいって大騒ぎするのに、今日は大人しいな。そればかりか話し方も何か変だ。オマエ具合でも悪いのか?」
そう。改めて自分を見返してみれば子どものままだと言うことを忘れていた。正直に頭脳は大人になったことを告白するべきだ。
しかし突然勇者の頭に悪魔のような知恵が働いた。
この大人の頭脳でいられるのはいつまでなのだろう。きっと期限付きに違いない。子どもであるから許されることがある。子どもであるからミューは添い寝していてくれたのだ。
添い寝──。
なんとも魅惑のシチュエーション。
恋をしたことがない勇者は大好きなミューともう少しだけそれを味わってみたいと思ったのだ。
出来ればキスもしてみたい。
これは今まで一人で戦い抜いてきた自分への、神ダマーからの贈り物だ。それをミューとの時間に使おう。ならば子どもの振りをする必要がある。
「エヘエヘエヘ」
「何笑ってるんだ? 気持ち悪い」
「おじさん。ボクタマゴ持ちたい」
「? ああ。なんだ。やっぱり普通のボーズか。落として割るんじゃねーぞ? じゃキャンプへ戻るか」
ハスキーは、見た目は子どもだが、中身は変態勇者を連れてキャンプへと戻った。