第73話 変態勇者1
勇者を乗せた馬車が東の都に進んで行く。
その日の馬車当番はハスキーで、その横の助手席に勇者は乗り込んでいた。
楽し気に足をパタパタ動かして、ハスキーに話しかける。
「ねぇねぇ。おじたん。お馬たんは早いねぇ」
「そうだなぁ」
「パカラ。パカラ。パカラって行くんだ〜」
「そうだな」
「お馬たーん。お馬たーん。ニンジンがあるぞ〜。おいしーぞ〜」
「うるせーなぁ、おめぇは」
「おめぇって言っちゃダメなんだよ。おめぇっていった人がおめぇなんだじょ」
「うるせぇ。ミューと後ろに乗ってろ」
そんなやりとりをしばらくしていた。
すると、ハッとした勇者が前を指差す。
「あ。妖精だ」
「なに?」
すかさずハスキーは馬車を止める。
妖精がいるということは先の女神リフィトのように贈り物をくれると言うことだ。
馬車が停まったので、後部座席にいたミューも顔を出す。
「なに? どうしたの?」
「妖精だとよ」
「あら。じゃぁ追いかけなきゃ」
すでに勇者は一人、おぼつかない足取りで駆け出していた。
そこにはカゲロウのような羽虫が三匹飛んでいる。
あれが妖精であろうと、ハスキーとミューもその背中を追いかけた。
やがて草むらに入り、生い茂る草をかき分けて行くと、少しばかり広い場所に出た。
そこには石が丸く置いてあり、その中央には花が咲いている。
それは何かを祀っているようでもあった。
「こりゃ期待できそうだな」
ハスキーがつぶやくと、その花の中から小さな宝箱が現れた。
宝箱と言っても装飾も少なく、木箱に革を打ちつけた雑な作りだ。
それにもかまわず勇者は前に進んで空箱を開ける。
すると中から白い煙が吹き出して勇者を包んでしまった。
「ふぎゃ!」
驚いて勇者は尻餅をつく。煙はそれっきりだった。
ハスキーが宝箱を覗いても何もない。
「なんだ? 神様も現れないし」
「煙だけ? そんなこともあるのねぇ」
煙を浴びた勇者は、顔に蜘蛛の巣がついたのをはがすような動きをしていた。
その様が滑稽で、ミューとハスキーはしばらく笑い、やがて勇者の手を引いて馬車に戻っていった。