第72話 カードゲーム
夜は誰にでも等しく平等のやってくる。
その日も夜となり、夜の見張りはハスキーであった。
そして、ミューが眠っているにもかかわらず、なぜか起きて目が冴えてしまった勇者が、ハスキーに絡んでいた。
「ねね。おじたん、あそぼうよ~」
「遊ばねぇーよ。明日も旅は進むんだから、さっさと寝ろ」
しかし、勇者は注意されたにも関わらず、自分の道具袋から、西の都サングレロで他の子どもたちと遊んだカードゲームを出してきた。
「ねね。おじたんこれ見てー」
「なんだそら。聖剣グラジナのカード?」
そこには勇者の装備が描かれている輝くカードが一枚。
他にはモンスターが描かれたカードや、弱い装備のカードがある。勇者伝説から派生したカードゲームだ。勇者の持っている本物とは大分違い、想像で書かれたゴテゴテの聖剣グラジナのカードがそこにあった。
「そうだよ。カッコいいでしょー。これ、シークレットだよ。シークレット」
「いいから寝ろ。子どもが起きてていい時間じゃねーよ」
「おじたんに5枚渡すね」
「いいから寝ろ」
勝手にゲームを進める勇者。しかも、ハスキーにはレア度を示す星の少ないものを選別して渡している。
自分は祭りの夜店でたまたま当てたシークレットばかりのカードを見えないように持った。
他の子どもと遊んで覚えたので、勇者の方に一日の長がある。
「横に装備品のカードを置いて、真ん中に装備する人を置くの」
「あっそ。はいはい。1回だけだぞ? 終わったら寝ろよ?」
「うん!」
勇者の楽しそうな声でゲームスタート。
渡された五枚から装備と戦う者を選ぶ。
二人の中央にはカードを重ねた山札があり、自分が提示したカードの他に山から引いて勝敗を決す。そこには技カードや装備カード、冒険者やモンスターのカードがある。
手持ちが弱いからと言ってもバカには出来ない。強力な技カードで一発逆転も狙える。
「ボクはね~。これね~。氷の巨人と聖剣グラジナ!」
なんと、スタートから星6の巨人カードと、星8の聖剣。ぶっ潰す気満載。巨人カードは体力も多く、ほぼ負けないのだ。
「なんだそりゃ。誰でも聖剣装備出来んのかよ。オレはこれだ。子どもコボルドと短剣」
「くふふ。そのカード弱いよ」
ハスキーは勇者に渡された星の少ないカードを並べた。負けてもいい。さっさと眠らせたいのだ。
「じゃ、ボクからね!」
興奮した勇者は山から技カードを引く。
「わ! 星5の技カード! えと、えーと……。とらつぷつりてんじよう……。つぎのターンで相手の体力を2000減らす……」
たどたどしい読み方。字がまだ上手に読めない。どうやら『トラップ釣り天井』のカードは次のターンで大ダメージを与えるもののようだった。
子どもコボルドの体力は400。
次のターンが始まったらハスキーの負けは必至だ。
「おー。つえーの出たな。おとっつぁんの負けだな。ボーズ。いつまでも起きてないですぐ寝ろよ?」
「まだ~。ねぇ、山からカード引いて~」
ちゃんと負かしたいらしく、ハスキーに山札を取るよう催促した。ハスキーは舌打ちをしながら山札に手を伸ばす。
「チッ。まったくしょうがねぇな。ん? なんだこりゃ。『★8神聖大魔法、流星嵐メデストム』勇者からの応援、どんな敵でも10000のダメージを与えることが出来ます。巨人族には無条件で勝利できます。ただし、聖王のマントを装備しているものには無効。……だとよ」
「ぐ、ぐぎゃーー!」
勇者はそこに身を伏して泣き出してしまった。
負けるのが悔しいのだ。あまりにも泣き叫ぶものだから、ミューもシロフも起き出して来てしまった。
「どうしました? 勇者さま」
勇者はミューの足にすがりついて泣く。
そして、ハスキーに負けたことを伝えるのだ。
「あのね、ボク何にもしてないのにね、おじたんが卑怯な技使った~」
「おい、ウソつくな。勝手に始めて勝手に負けたんだぞ。ミュー」
「勇者さま。夜更かしはいけませんよ。すぐ寝ましょう」
「うん」
勇者はグズりながらテントに向かい、振り向いてハスキーに捨て台詞を吐いた。
「もう、おじたんと遊んであげない!」
そう言って、テントに引っ込んだ。ハスキーは苦笑した。
「おい。オレが遊んで貰ってたの? そんで……これ、オレが片付けるのかよ」
ハスキーは仕方なく、散らばったカードを拾い集め、入っていた袋にまとめて突っ込んだ。