第70話 二頭立て馬車
次の日、勇者たちは長逗留していられないので、祭りの最中ではあるがこの街を発つために旅支度を始めた。
街の有力者たちは、勇者一行が発つと言うことで、急いで路銀を集めて見送りに来た。
「ユークさま。ハスキーさま。長くこの地にいて頂きたかったのですが、お二人には志がございます。残念ではありますが、どうかこの街をお忘れになりませんよう」
「ああ。分かった。ボーズに代わって礼を言うよ」
ハスキーはひょいと都長の後ろを気にする。そこには、2頭だての馬車が停車していた。
「いしし。おうまたんいっぱいいるし」
「おお。勇者さまが気に入って頂けるとよいのですが。荷物もたくさんあるでしょうから、その荷車は廃棄して、こちらの馬車をお使いになってはいかがでしょう」
ハスキーの顔が嬉しく歪む。
「そうかい。ありがてぇ。馬車を操れる従者はいるかなぁ?」
「いえ、それが……」
「いないのかい?」
それはそうだろう。街から出ればそこは魔王の力が及ぶ激戦区。勇者のように腕がたつならまだしも、武装も無く従者を引き受けるものはいなかった。
「うーん。まぁ、オレが馬車を操れなくも無いがなぁ」
その時だった。城壁の上から、一行目掛けて飛び降りてくる二匹の魔物。それは、ハスキーの部下のコボルドであった。
「隊長!」
「あ。ワンワンのおじたんたちだ」
「なんだお前たちか。傷は大丈夫か? 城には着いたか?」
「ええ。この通り。傷も癒え、城にあった書き置きを見て、その志が分かりました。他の連中は各地に散らばる一族を迎えに行きました。今少しずつ一族が集まっているところです」
「そうか! 良かった」
「そして、我々は勇者さまと、隊長をサポートするために来ました」
「おお。助かる! ボーズ。ミュー。紹介するよ。この毛の色が灰色い方がハイナ。白い方がシロフだ。偵察の腕前はかなりいい。この城壁だって登るくらいだからな」
「我々は何をいたしましょう?」
「そうだ。ハイナは、このロバの荷車を城に引いていってくれ。そしてまた合流するんだ。シロフは新しい馬車の運転手。どうだ。頼めるか?」
「お安いご用です」
ハイナに御されてロバと荷車は先にコボルドの城へ向かう。
ハスキーとミューは勇者の手を引いて馬車の後部座席に乗り込みむと、シロフの運転により、馬車は出発した。
「ひょ! ひょーー! ひょっ! ひょーーっ!!」
楽しそうに馬車に揺られる勇者の奇声が西の都にこだまする。
勇者一行は、ハスキーの鼻を頼りに、東の都ムングレロへ向けて進んでいった。