第68話 祭りの夜
勇者はミューを片手に抱いて地上舞い降りる。
彼女を大地へエスコートすると、勇者はハスキーの元へ走った。
そして、起き上がることの出来ないハスキーを抱きかかえる。
「ゴメンよ。ハスキー。尊敬するキミを忘れてしまうだなんて」
「へっ。大人になったらタメ口かよ。お前がオレを忘れてたことなんて、オレはとっくに忘れちまってたわ」
二人して合わせ笑うが、ハスキーは全身が痛み顔をこわばらせた。
「ああ。そうだ。重ね重ねすまない。クリニク!」
勇者の回復魔法。たちまちハスキーの体に突き抜ける爽快感。さらに毛並みまでバッチリ揃う。
ハスキーは立ち上がり、勇者の肩の高さに手を上げて肉球のある手のひらを見せると、勇者はハッとしてそれにハイタッチした。
「へへ。仇を倒せて良かったなボーズ」
「キミのお陰だよ。ハスキー」
街の人たちも喜び、三人を取り囲んで口々に讃えた。
「勇者さま。昨日もお聞きしましたが、是非とも勇者さまのために贈り物がしたいです。何なりとお申し付け下さい」
勇者はアゴに手を当て、しばらく考えて手を打った。
「では祭りの夜を彩るように、あの美しい花火を上げて下さいませんか? 私は彼女と最高の席で見たいのです」
そう言ってドラゴンと化しているグラジナを指差すと、街の人々も笑ってうなずいた。
「お安いご用ですよ」
勇者はミューの手を引いてグラジナの上に乗り大空へ飛び上がった。ハスキーはそれを笑顔で見送る。
「へっ。おとっつぁんは恋の邪魔者かよ。まぁいいか。肉、肉、にくぅ~!」
ハスキーはテーブルに並べられている肉料理にありついた。
勇者とミューはしばらく空中を散歩。そこへ花火が上がる。二人はその美しさに見とれてため息を漏らした。
「平和はいいですね。勇者さま」
「そうですね。この平和が長く続くように使命を果たさなければなりません」
勇者はミューを手を強く握る。ミューは大人になった勇者を花火の一瞬の明かりを頼りにまじまじと見つめた。
「勇者さま。約束を覚えてますか?」
「無論です」
勇者がミューに顔を近づける。
それを花火が一瞬だけ照らす。
「ミュー。キミを……」
だがその言葉の続きを言う前に、彼女の唇が離れてゆく。
みるみる彼女の顔を見上げる勇者。
「あれれ~?」
「勇者さま。あなた、また子どもに?」
「えへ。なんでかな? なんでかな?」
「シェイドも倒れたのに……。まさか! 最後に呪いの言葉を言ったから?」
「わーすごい! おねえたんは何でも知ってるね!」
両手を上げてはしゃぐ勇者をミューは僅かに笑い、そのおでこにキスをした。
「あわわわわ。おねえたん、ボク、顔が熱いや」
「うふふ。私も」
二人はドラゴンの上で寄り添いながら花火を見続けた。
ここで、一部完とさせていただきます。
ユーク、ミュー、ハスキーの旅はまだまだ続くでしょう。
その時まで、いちじのお別れです。