第66話 ポーン
ジエンガの元より高速で回転する大火球がハスキーを襲う。
だがその大火球はハスキーの前で渦を巻きながら胸に吸い込まれてしまった。
驚く道化師の二人。白塗りの化粧でも引きつっているのが分かる。
ハスキーの胸にかけられているのはリザードマンのトッカリより得た戦利品、沈黙の宝玉があったのだ。
それは魔法を吸い取ってしまう。ハスキーはその効力を目の前で見ていた。だから自信があったのだ。
「走れ! ボーズ!」
「は、はい!」
勇者は聖剣グラジナを引っ提げ、時計台へ向けて走った。
ハスキーは怪我だらけの体を抱えて笑った。
そこへジエンガが長い横笛を持って近付く。
「ムカつくよ。オマエ。弱い弱いコボルドのクセに」
「ああ、そうかよ。さっきのオマエの姿、実に笑えたよ。目を真ん丸くして驚いてやんの」
「こいつ!」
ジエンガは細くて長い足でハスキーを蹴り上げた。
「オマエには魔法が効かないみたいだからゆっくりと蹴り殺してやる」
「どうして自分が勝つと信じて疑わないかねぇ?」
「はぁ?」
ジエンガは怒って地面に伏すハスキーを蹴りつける。
「お前はしょせん兵士だ。弱いよわーいコボルド族。私は魔王軍の将校。そして満身創痍で動く場所も武器もない。そんな様子で勝てるものか! どんなゲームでも兵士が将校に勝てるか。バカめ」
そうジエンガは話している間にハスキーは身をよじり、僅かに動く片腕で手袋に仕込んでいる投げナイフを、ジエンガのノドに向けて投げつける。
「ぐが!?」
それは的確に命中しジエンガは後ろに倒れた。
「──だがどんなゲームでも兵士が上官に勝てる方法がある」
巻き起こる歓声。それを受けてハスキーは笑いながら地面に寝そべった。