第62話 ストーンゴーレム
勇者はトボトボと街中を歩き続けた。周りは祭りの真っ最中なのに少しも楽しくない。
なるべく人のいない道を歩き、また城壁の上へ登る。
四つある城門から四つの道が延びるが、自分がどっちから来て、どっちへ行くか分からない。
「太陽の位置から行くと、ここは西の都サングレロかなぁ? ずいぶんと遠くに来たものだ。おねえさんとおじさんは無事だろうか? ああ。自分で鎧をとってこいといったクセに」
日が陰る。勇者は一日中そこにしゃがみ込み、寂しそうにうなだれていると、人の声が聞こえてきた。それはこの街の人びと。どうやら勇者のことを探していたらしい。
「おお、ここにおられた。宿屋のばーさんから聞きました。魔法が解けたのですね。なるほど大人のお姿だ」
「あなた方は?」
「我々はこの都の住人です。さぁ行きましょう。あなたのために宴席を用意してあります」
そっとしておいて欲しかったが、自分は人類を救う使命を持ったもの。道行く人々の温情を無碍には出来ないので、黙って好意に甘えることにした。
宴席には様々な豪華な料理が並んでいる。街の有力者がすでに座り、勇者を上座へ迎えた。勇者の両脇には空席が二つ。
「ここは……」
「もちろん、お供の方々のものです。あのお強いハスキー様に我々は無礼なことをしてしまいました。ハスキー様は?」
「それが」
「はい」
「出て行かせてしまいました」
「左様ですか。勇者さまは使命のある方。何か戦略があるのですな。いつお戻りに?」
勇者は黙って目の前の焼かれている塊肉を大きく切り、ハスキーの席の皿の上に置いた。
「おじさんは肉を楽しみにしていたよな。ああ。私のせいで……」
その時だった。街中から悲鳴が響く。
みな驚いて立ち上がったが、勇者は一人塞ぎ込んで席に座ったままだった。
地響きが轟く。城壁に大きな穴があき、そこから大きな石造りの腕が伸びてきた。
「ゴーレムだ!」
「2匹もいるぞ!」
「ゆ、勇者さま! 助けて下さい」
「え? ……ああ」
勇者は立ち上がり、力なくそちらに進んでゆく。
そこには岩が無造作に重なったような4メートルほどのストーンゴーレムが二体。雑な作りだ。いっちょ前に四肢があると勇者は苦笑する。だが街の人びとにすれば厄介者だろう。
ゴーレムは自分の体が崩れないようヨタヨタと街の中に侵入していた。
おそらくは、これを操る術者がいるのだろうと勇者は思ったが、取り敢えず目の前の害を取り払わんと、ストーンゴーレムに向かって走り出しながら聖剣グラジナを抜く。
「おお!」
街の者たちはどんな勇者の大技が見れるのかと思ったが、接近して一体に一振り。返す刀でもう一体に剣撃を浴びせると二つは粉々に砕け散った。
勇者がむにゃむにゃと魔法の言葉を唱えながら何もない場所に剣で十字を切るとみるみる城壁が塞がっていき、元通りになってしまった。
「ふう」
静寂──。だがその後に歓声が起こる。
勇者は何でもない顔をして席に戻った。
青年となった彼にしてみれば、しゃがんで小石を拾う程度の仕事だったようだ。
「いやぁお見事。昨晩の大魔法メデストムのように派手ではありませんが無駄な動きはありませんな」
「え? メデストム? 私が対魔王戦用に用意していた大魔法を使ってしまったのですか?」
「え? ええ……」
「そうですか……」
青年勇者には戦略がある。むやみに手の内を見せたくないのだ。
魔王との戦いに用意していたものを幼児の自分は一つ使ってしまっていたようだった。
「しかしあの動き! 我々は人類の勝利を確信しましたぞ?」
「……ありがとうございます」
テンションが上がらない。早くこの街を出て二人を探したいのだ。だがあてがない。勇者は街の者たちに二人の情報を聞こうとしていた。