第60話 勇者バンザイ4
しかし勇者はここがどこか分からない。
宿泊施設のようなので、受付に行くと老婆が一人。
「おやおや。お連れさんが言ってたのは本当だ。あの小さい姿は魔法だったのですのお」
「お、お連れさん? 私はここに泊まっていたのか? 悪いが部屋に案内してくれ」
「もちろんです。どうぞこちらへ」
老婆に案内されて行くと、小さな部屋にベットが3っつくっついている。その中央のベッドには道具袋と聖剣グラジナ。
道具袋の紐には緑色の風船がくくりつけられていた。
それに勇者は思わず笑顔になる。
「はは。緑は好きな色だ。しかしどこで?」
用意されていた服に着替え、道具袋を開けると、色々なものが入っていた。
手に取ったのは木で出来たアヒルのおもちゃ。
ミューが昔使っていたものを与えられたものだった。
「お。懐かしい。こんなもの持ってきてたのか。これはたしか二つあったんだ。水浴びしてる途中で一つ流されてしまったんだよな。その時、モノを大事にしなさいって叱られたっけ」
アヒルのおもちゃを懐かしそうに手のひらの上で回す。だがふと気付く。
「……誰に? 誰に叱られたんだっけ? 両親が亡くなってから聖堂に引き取られた私にそんな厳しい人がいたっけ?」
しばらく不思議そうにアヒルのおもちゃを眺めていたがどうも思い出せない。次に手に取ったのは夜に輝くエグラストーン。
「へぇ……まるでランプみたいだな。こんなのあったっけ? でも懐かしい。おじさんと……おねえさんに一つずつ……」
勇者はそう言ってベッドに倒れて天井を眺めた。
そして、右と左を見る。そこにいるはずの大事な人たちがいなくて胸が押しつぶされそうだ。
「うう……。ううう……。なんだ。私は泣いているぞ? どうしてだ? 仲間などとらずに寂しさには慣れているはずなのに。 ひぐ……ひぐ……」
勇者は流れる涙を止めることが出来なかった。
彼はベッドから飛び降りると、この街の城壁に向かって走り出した。
知らない街だ。だがどこに階段があるのか覚えている。
彼は城壁を駆け上り、暗闇の中、見えなくなった何かを探した。
「ううう……。あの時と一緒だ。あの時と……。大事な人がどこかに行ってしまった……」
勇者は城壁の上で膝をつき、大声で叫んだ。
「おねえさーーーーん!!」
その声は哀しく辺りに響いたが、呼ばれた本人には聞こえていなかった。