第58話 勇者バンザイ2
「はー。最高の気分だな」
「ふふ。本当ね」
「ね、ねー。ボク、お風呂入りたーい」
「そうだな。今日の垢を落として、明日は大きな屋敷で歓待を受けるわけだし」
三人は宿屋の温泉に向かっていった。
男女に分かれているので、ミューは女湯へ。勇者とハスキーは男湯へ。脱衣所で勇者は兜とマント、そしてミューに縫って貰った小さな服をカゴに入れて、ハスキーとともに浴場に入っていった。
中は熱気でムンムン。湯気が立ちこめている。
他に客もいないので、貸し切り状態だ。
二人は体を洗い、風情のある露天風呂に身を沈めた。
「ふわー。いいな」
「あっついね。あっついね」
「おいおい。根性入れろよ。こんなの熱くねーだろ」
「えへ。今日のおじたんかっこよかったよ」
「今日もだろ? 今日も」
「おじたんはボクのおとーたんみたいだ」
「へー。そうか。前にも言ってたな。ボーズのおとっつぁん。どんな人だった?」
「あのね。ボクとおかあたんを魔物から守って死んじゃったんだ」
「そっか……」
ピチョンと音を立てて雫が落ちる。
もうもうと立ち上がる湯気。
時折煙ってハスキーから勇者の顔が見えなくなる。
「なぁ。ボーズ。オレをおとっつぁんだと思ってくれていいんだぞ」
そう言いながら思いきり足を伸ばし、空を見上げた。
湯気が夜空に消えてゆく様が幻想的だ。
ふと顔を勇者に向けると、先ほど彼のいた場所に別な若い男がいる。
「おや? ここにいた小さい子どもを知りませんか?」
「な! こ、コボルドだ。なんだ? おかしいぞ? ここはどこだ。なぜ私は裸なんだ?」
ハスキーの鼻がピクリと動く。前にいる青年から勇者の匂いがする。しかも顔には小さい勇者の面影がある。そしてやんちゃに跳ねた髪。
「う、うそだろ。ボーズ。魔法が解けたのか? オマエは勇者ユークだよな?」
「くっ! 馴れ馴れしいぞ! この魔物め!」
青年となった勇者は、ハスキーのモフモフとした体毛をつかんでやろうと手を伸ばしたが、ハスキーはそれを飛び上がって回避した。
「おいおい。オレを忘れんなよ。オレだ。ワンワンのおじたん」
「うるさい! ここはどこだ? どこかの街の温泉? 頭が痛い……」
「成長したら、立派な聖剣ぶら下げやがって。可愛かった自分を思い出せよ」
「な、なんて下品な魔物だ! ともかく、コイツを退治しなくては!」
「うおい! ウソだろ! ミュー!」
ハスキーは急いで脱衣所へ行き、自分の服を持つととっとと出てしまった。それに続いて勇者も脱衣所に来て自分の着替えを探す。
「こ、これは聖王のマントだ。フェニックスの兜も。しかしなんだこの小さい下着は。虹の鎧がない! あのコボルドに盗まれたんだ!」
勇者は聖王のマントを腰に巻いて廊下に飛び出すと、コボルドのハスキーは女湯の前でジタバタと着替えの真っ最中だった。