第57話 勇者バンザイ1
勇者とハスキーが城壁から下りると、二人を迎えたのは大歓声だった。
「勇者ユークさま! 勇者ハスキーさま!」
「勇者万歳! 万歳! 万万歳!」
ハスキーは嬉しくなって、勇者の脇を抱えて高らかに上げた。
それにまた大歓声が起こる。ハスキーはそのまま勇者を肩車してやった。
「勇者さま。さぁさぁ、どうぞこちらへ」
「いやぁお見事でございました。生きているうちにあんな大魔法を拝めるとは」
勇者は人が多いことにテンションが上がって、ハスキーの肩の上で身を揺らしていた。
「勇者さま、何なりとご希望の品をおっしゃって下さい」
「おお。そうだ。ボーズ。街の人が欲しいものをくれるぞ。何がほしい? 馬車だよな?」
「あのねー。ボクねー。ふうせん!」
「風船かよ!」
急いで露店からかき集められた何十もの風船が運ばれてきた。
勇者のテンションはマックスとなり、ハスキーの肩から降りて、風船を片手に喜んだ。
「すごーい! ボクはふうせん屋さん!」
「お、おう」
「ふうせんいりませんかー? ふうせんいりませんかー?」
風船を持ったままギャラリーの前で声を張り上げると、ハスキーは笑って声をかけた。
「じゃー1つ下さい」
「はい。1イェンです」
「安。薄利多売かよ」
街の人たちはこの可愛らしいやりとりに思わず笑ってしまった。
しかし、ハスキーに緑色の風船を一つ渡すと、手が滑って何十もの風船は空へ飛んでしまった。
「あり。とんでっちゃった」
「のんきかよ」
残ったのはハスキーの手にある緑色の風船が一つ。彼はそれを勇者の手にくくりつけてやった。
その間に山と積まれる貢ぎ物の数々。
肉や魚、穀類に野菜。酒や水。さすがに期待以上の品々に、ミューとハスキーは目を丸くした。
「いえ、ニセ勇者が置いていったもので申し訳ありませんが、もともと、勇者ユーク様がお受け取りになるはずのもの。どうかお納めください」
「こ、これは……。とても私たちの荷車には乗せられませんわ」
「もちろん、大きな馬車を差し上げます。そして本日は屋敷の方へご逗留下さい」
「しかし、我々は最初の宿に荷物を置いてきてしまっております。明日宿を引き払ったら甘えさせて下さいませ」
「もちろんでございます」
行きは重い気持ちだったが帰りはなんと足取りが軽いことだろう。三人は笑いながら祭りの道を帰っていった。