第56話 アルレッキーノ
そんな二人を、この街の名所である高い時計塔の屋根の上から見つめる影があった。
勇者はこれを知らない。だがこれがシェイド。
彼の仇敵。彼を幼児に変えた大魔法使い。しかし、その影から同じ格好のものが現れる。
道化師の衣裳を着て、顔は白く塗られているので本当の顔は分からない。
片方は大鎌を持ち、片方は長い長い横笛を持っていた。
その笛をもっている方が、大鎌の方へ話し掛ける。
「ほう。シェイド。キミの言っていた勇者は祭りの夜に間に合ったらしいな」
「うむ……。だがおかしい」
「どうして?」
「私は呪いの魔法をかけた。だがそれは、カエルになる魔法だ。しかし勇者は子どもになっている。なぜだ?」
「ふむ。さすが12柱の神々の加護と言ったところか。君の魔法はある程度抑えられ、子どもまでにしかならなかったということか?」
「なるほど。それも考えられる」
「それにしても、勇者の協力者が邪魔だ。何故あのコボルドは勇者の技が使える?」
「うむ。あの二人は離してしまう方がよさそうだな」
「良い考えがある。シェイド。キミは勇者への呪いを解除したまえ」
「いやぁ。もったいない。無様なあの姿のままでいさせたい」
「そうか。じゃあ呪いはそのままで一時的に大人に戻る魔法を使ってやろう」
「どうするつもりだ? ジエンガ」
「知れたこと。幼児の記憶は大人にはなかなか残らない。急に大人になれば、あのコボルドのことなんて忘れてしまうさ」
「くくくくく。なるほど。では少し魔力を多めに使った方がいい」
「当然そうさせてもらうよ」
大鎌のシェイド。横笛のジエンガ。
二人は闇夜に笑う。
街の中は大歓声のため、二人の不気味な笑い声に誰も気付きはしなかった。




