第52話 スカム4
ミューとハスキーはまだ自分たちのために歓待の準備がされていると思っている。
「はー。なんか緊張するなぁ。本人じゃねーのに」
「ふふ。わたしも」
「勇者さまのお付きのコボルドであるハスキーさまは、我々のために命を投げ打って働いてくだすってる? さぁさぁどうぞ。上座へ……なんつって」
「あり得るわよねぇ」
すると時計塔の脇にある大きな屋敷に人だかりが出来ている。
そこから少し離れた場所で、ハスキーは空咳をうった。
「うぉっほん」
「キャ! 勇者さまが来られたわよ!」
「キャー! キャー! キャー!」
ミューは急いで前髪を直し、ハスキーは待ってましたとばかりキメ顔を上げた。当の勇者は口をポカンとあけていたのだが。
しかし、人々の目線はこちらではない。
屋敷の方を向いている。
そこから、薄青いマントを羽織り、雉の尾羽のついた兜と銀に輝く鎧を纏った青年がギャラリーににこやかに手を振り上げて現れた。
「な、なんだありゃ?」
「キャー! ユークさまー!」
「くふふ。同じ名前だし」
「勇者さまの偽物ですよ」
「なんで?」
「きっと、街の人の貢ぎ物が目当てなんですわ」
「へー。そーなんだー」
「のんきかよ。やいやい偽物!」
ハスキーは屋敷から出て来たニセ勇者に怒鳴りつけた。
ニセ勇者の方もその声にハスキーを一瞥して驚く。
「こ、コボルドが街の中に……っ!」
「おいおい。驚いたのはそっちかよ。オレは良いんだ。魔物でも勇者さまのお供だからな」
観客がザワつく。たしかに魔物だ。
しかし勇者のお供。自分たちは青年勇者を歓待していたが、魔物を仲間に引き入れるほどの勇者がここにいるのかと、辺りを見回した。
「おいおい。目が節穴さんばっかりだな。ここに、フェニックスの兜を被った方がおられるだろう」
街の人の目が一斉にハスキーの足元に集まる。
そこには口をポカンと開けたままの幼児。
みな、時間の無駄とばかり、青年勇者の方に顔を向けた。
「うぉい。ウソだろ! 勇者ユークは人類の為に戦ってくれてると言うのに」
と手を広げて大げさに熱弁するものの、全く誰も見向きもしない。
「おい、ボーズ。オマエも自分の口から勇者だと言ってくれ。な? 頼むよ。あんな詐欺師が勇者扱いされて悔しくないのか?」
「うん。ボク勇者だよ。おじたんも勇者。みんなみんな勇者だと思うよ~」
「バカ。今はそんな幼児の模範的解答はいいんだ」
ニセ勇者は涼しい顔をしてハスキーを指さした。
「さっきからそこの魔物がうるさいですね。私が剣を一振りすれば倒れる魔物ですが、今はめでたい祭りの日。それに免じて殺生はしないでおきます。ですが早々にその目障りなコボルドを追い払ってください」
勇者の頼みとあらばとばかり、腕っぷしの強そうな男たちがハスキー向かって拳を振り上げてきた。
「ウソ。マジかよぅ!」
ハスキーは驚き急いで宿屋の方に逃げ出した。