第49話 スカム1
西の都サングレロは大賑わいだった。
祭りが数日行われるその初日。勇者の一行がこの地を訪れたからだ。
都の有力者は勇者を屋敷に呼び大歓待。
その屋敷には、都民たちがこぞって貢ぎ物の酒や野菜、果物、肉、魚、金銀などが届け、旅の労を労った。
「勇者さま。勇者さまぁ!」
「どうか魔王を倒して我々に平和と安らぎを!」
「子どもたちに未来を」
その声に、勇者は屋敷から出て来て手を振って答えた。
雉鳥の尾羽飾りのついた兜に、薄青色のマント。銀色に輝くの鎧に幅の広い大剣。年の頃は20を少し回ったくらいで中肉中背の男。
そしてお供にローブ姿の男女。
これが勇者ご一行。それは、幼児の勇者ユークとは全くの別人であった。
本物の勇者は、ハスキーが御す荷車の幌の中でお昼寝中。
ミューの膝枕で気持ちよさそうに眠っていた。
「お。見えてきたぞ。あれが西の都サングレロだ」
「うふふ。やっと来れたわね」
「ここで、仇敵を倒せばボーズは本来の姿に戻るんだろ?」
「うん。多分」
「協力するぜ~。その敵はどんな姿形なんだ?」
「それが分からないの」
「分からない?」
「……うん。トイレしてるときに後ろから魔法を使われたみたい」
「そうか、卑怯なやつだ」
「うん。それに……」
「それに?」
「勇者さまは元の姿に戻った時、私たちを覚えているのかしら?」
「ん? うーん」
「私も小さい頃の記憶があまりないから……」
「なるほどなぁ。そう言われてみりゃオレもそうか。子どもは頭も発達してねぇからなぁ」
「うん。私たちのこと、忘れないでくれればいいけど……」
「バカ。忘れるか。忘れるもんかよ」
「だったらいいんだけど……」
やがて都を囲む城壁に近付いてくる。
何十メートルもある高い城壁だ。そこに、垂れ幕が下がっていた。
「歓迎、勇者ご一行?」
「へー。どこで分かったのかしら?」
「へへ。勇者ご一行ならコボルドでも歓迎されるかな?」
二人は眠っている勇者を起こし、身だしなみを整えた。
「ふぁ~あ。ボク眠い~……」
「勇者さま。西の都に着いたんですよ」
「え? やったー! おまつりだ~」
「へへ。はしゃいでらぁ」
「前の集落ではすごい貢ぎ物を頂いたの」
「貢ぎ物?」
「ええ。勇者さまにかける期待が大きいのね。この荷車も布や食糧。お金なんかも頂いたわ」
「マジか。すげぇな。この都は人が多いから、従者付きの馬車とか貰えたりして!」
「ふふ。がめついけど、期待しちゃうわよね」
荷車は城門をくぐっていった。