第47話 レギオン1
勇者とミューが寝静まった頃、ハスキーは自分の刀を砥ぎ石で研いでいた。
「うーん。なかなかサビがとれんな。あまり研きすぎると折れちまうかも知れんし。今日はこの辺にして寝るか……」
そう独り言を言って顔を上げると、ゾッとした感覚に襲われた。
暗闇にひと気を感じたのだ。
恐る恐るそちらに目をやると、白骨が一体、片手に錆びた一振りの剣を持ち、ジッとハスキーの方を見ていた。
「わ! ……ビックリした。人間の骨か。しかし立っているのは変だな」
そう思っていると、白骨は剣を振り上げてハスキーに襲い掛かってきた。
「あ、あぶねぇ! 筋肉も肉もないのになぜ動けるんだ!?」
恨みを持った剣士の死霊であろう。
剣術のかけらもない。無闇矢鱈、滅多矢鱈に剣を振り回してハスキーを襲う。
もはや、刃など使いこなしていない。嶺だろうが、鍔だろうが当たるを幸いと打ち下ろすだけ。ハスキーは防戦一方。
「くそ! コイツは疲れを知らんのか?」
このままでは避け続けてこちらが疲れて不利になる。
ハスキーも身を低くして、刀で足を振り払った。
動く白骨は、バランスを失って地面に崩れた。
「ハァハァやったか?」
ふと見ると、動く白骨の後ろには軍勢の白骨が隊列を組んでこちらを見ていた。
「……恨めしい。……恨めしい」
ゾッとする、地の中から響くような声。
これが突然号令と共に襲い掛かってきたらひとたまりもない。
自分ひとりで防げるだろうか?
だが逃げるわけにはいかない。
「うーん。おしっこ~」
その時、寝ぼけ眼をこすりながら勇者が目を覚ました。
ハスキーはこの心強い幼児の起床に安らぎを感じた。
「ボーズ! 敵だ! 手伝ってくれ!」
その声と共に、先ほど倒した白骨がカラカラと音を立てて起き上がる。
「クソ! コイツは不死だ! 痛みも感じないんだ!」
「わぁ! お化けーー!」
勇者は怖がってハスキーに抱きついた。
魔物にはめっぽう強いが、人の霊や死体など怖いらしい。
戦力と思ったら、とんだ足手まとい。
ブルブル震えながらハスキーの足の下に隠れてしまった。
「うぉい! ボーズ!」
ハスキーは勇者に向かって叫んだが、震えてしまって聞こえていないようだった。