第42話 ピクシー1
その日、食事を終えた三人はエグラストーンを三方に置いて野宿した。なるほど、火があっても虫は寄りつかないし、ほんのりと明るくて寝やすかった。
三人が寝静まったのを見計らって行動をするものがいる。
「おれたちゃ、ピクシーニンジャーズ!」
「バカ。大きな声を出すんじゃない」
「ホントだよ。今まで隠れていたのが無意味じゃねーかよ」
ピクシーとは、イタズラ好きな子鬼だ。勇者と同じくらいの背格好。それが三匹、黒装束に身を包んでいる。
だが子鬼と侮るなかれ。本人たちは本気で勇者を倒そうとしているのだ。
大声に気付かれたかと、一同声を潜めて三人を見てみると熟睡のまま。ホッと一息。
各々が懐から凶悪な武器を取り出した。
「オレのいばらマキビシの威力を見せるときがきたか」
「バカ。ブーツで踏まれりゃ意味ねーよ」
「オイの葉っぱ手裏剣はどうかな?」
「そもそも、それ突き刺さるのか?」
「オレの小鳥の骨ナイフが早く血を吸いてぇと泣いてるぜ」
「それ、昨日の夕飯の余りだろ」
しかし、作戦は行き当たりばったりだった。
「う、うん……」
その時、ミューが寝返りをうつ。ピクシーニンジャーズは驚いた。寝巻きの隙間から覗く、ミューの胸。
小さいながらも形が良い。
そもそも、この子鬼たちは婦女子にイタズラするのが大好きなのだ。
「ひっひっひ。作戦変更だ。あの女にキスしたのが勝ちな」
「オレはおっぱいさわりてぇ」
「オイはパンツが欲しいであります」
一斉にミューに向かって飛びかかるニンジャーズ。
しかし、エグラストーンの力により、さっぱり近づけない。
「おんのれぇ~」
目の前にある艶めかしい肢体にイタズラ出来ないのはニンジャーズの名折れとばかり肩車の上に肩車を重ね、それを梯子のように一人が上から攻めようとするが、ドーム型の壁があるようで、ニンジャーズたちを跳ね返してしまう。
穴を掘って下から攻めようとしたが、そこにも壁がある。
「くそぅ。なぜ近づけん」
その頃ミューは夢を見ていた。
深い深い夢の中で、彼女はモンスターに襲われていた。
武器もなく必死に前に逃げるだけ。
後ろを振り返った途端太い腕で捕まれてしまった。
「きゃあ!」
「くへへへへ。大人しくしろぃ」
そう言った魔物の腕の力が緩んで、ミューは地面にお尻から落ちる。見上げると、魔物は二つに割れて絶命していた。
「待たせたね。ミュー」
その言葉の方を見るが逆光でよく見えない。
自分より20センチメートルほど背の高い青年。
見覚えのあるのは、フェニックスの尾羽がついた金と紫の兜。海色のマントの裏地は情熱の真紅。七色に輝く鎧。そして利き腕には光溢れる聖剣グラジナ。
それが一歩一歩近付いてきて彼女に手を差し伸べた。
「ボクだよ。ユークだ。君との約束を果たしに来たんだ」
顔が見える。微笑む優しい顔。
小さい勇者の面影がある。そしてやんちゃに跳ねた髪。
「恐れ多いです。勇者さま」
その言葉をユークは口づけでふさぎ抱きしめる。
「……結婚しよう」
「はい。お受けします」
ユークはミューを抱きしめ放そうとしなかった。




