第41話 コボルドの城2
勇者とハスキーが約束を交わしていると、ミューが両手に鉄の鞘に納まった一振りの刀を持ってきた。
「ハスキー。これではどう? 昨日寝た部屋の隅でホコリを被っていたものだけど」
ハスキーはそれを受け取り、鞘から引き抜いてみると、日本刀似にているが少しばかり細くて薄い。
軽くて扱い安そうだが、切っ先には赤錆が出来ていた。
「なかなか良さそうだな。名付けるとしたらレッドサーディン、赤鰯と言ったところか」
「へー。かっこいいね! ボクの剣はねぇ。スペシャルサンダーファイヤーバスターっていうんだじょ」
「聖剣グラジナでしょ。勇者さまのは……」
旅の支度もまとまり、三人は城の外に出た。
ハスキーは、城門に立て札を立てる。そこには、『勇者よりもらい受けたコボルドの城』と書いてあった。
「へー。コボルドの城か……」
「お嬢ちゃんもいつでも遊びに来てくれよ。ここに大きなコボルドの町を作るんだから」
「ふふ。いいわね」
「よし。じゃあ行くか。荷車を停めたのはここから10キロメートルほどだ。山道だが急げば日が暮れる前にはたどり着くだろう」
三人は荷車に向かって歩き出した。
道が険しい場所はハスキーが勇者を抱いて進むが、子どもの足。
目標の半分を少し越えたところで日が暮れ始めていた。
「これでは今日はここで野宿するしかないな」
「そうね。食料もたくさんあるし、少し減らしましょうか」
三人は火を焚いて野宿の準備を始めたが、そこで勇者が叫んだ。
「あ。妖精だ!」
「え? ホントですか? 勇者さま」
「は? どこだどこだ?」
「妖精にあったら追いかけるんだよ」
「ハスキー。ホラ立って急ぐわよ」
「なんだってんだ? どうした?」
急ぐ二人に付いて、ハスキーも走ると風に吹かれた木の葉が三枚。
何が妖精かと、ハスキーは立ち止まったが、どんどんと木の葉が集まりやがて球形となり人に似た姿となる。それが地中を指さすと、そこから小さな宝箱が現れた。
勇者がキラキラした目で宝箱を開けると、前と同様に宝を手に持った女神が現れた。
「勇者よ。私はこの土地の女神でリフィトと申します。魔王の勢い凄まじく人々はこの地より追われ、私をあがめる者がいなくなってしまいましたが、あなたの手により脅威は去りました。また昔のように人々が集まってくることでしょう」
勇者はにこやかに頷いた。文字数が多すぎる。おそらく頭に入っていないが宝を貰うために当たり障りなく頷いているのだ。
そこに、ハスキーが女神に話し掛けた。
「オレはコボルドのハスキーです。勇者さまよりこの地を頂戴し、一族と共にここに住む予定です。その折には必ずやリフィト様をあがめることと致します」
ハスキーはこの神々しい光景に度肝を抜かれたのだ。
そして、神の不憫な境遇を憐れに思い、自ら祀ることを志願した。女神はそれを聞いてうれしそうだった。
「そうですか。コボルドの一族が。我々神々は信仰心によりその力や命が永らえるのです。人や魔物の別はありません。そうして下さればあなた方に加護を与えることをお約束致しましょう」
そして、手に持った卵型の石を前に差し出した。
「もっと良いものを差し上げたいのですが、今の私にその力はありません。このエグラストーンは夜になると光り、虫や弱い敵など寄せ付けません」
「なるほど。我々はキャンプすることが多いので素晴らしいアイテムです。なぁボーズ」
「うん。あのねー。もっともっとあれば、夜明るくなると思うよ。えへ」
「えへ。じゃねぇ。神様におねだりすんな」
「ざ、暫時お待ちなさい」
女神リフィトは一度地中に消え、数分するとまた現れたが大変疲れた様子だった。
「ぜぃぜぃ。勇者の頼みとあれば是非もありません。もう一つばかり作って来ました。急場しのぎでもモノはいいものです」
「わーすごい! 神たまありがとー」
「はぁはぁ。では、私はこの辺で」
「ボクたち三人だから、あとおじたんのぶんもー」
ピシリ。
空気が凍り付く。一つを作るのがやっとといったところだが、勇者の無邪気な願い。リフィトは再度地中に沈むと、次に現れたのは数十分後だった。辺りは暗くなり、二つのエグラストーンが周りを明るくさせていた。
現れた彼女の目が血走り、髪や服装は乱れている。声も消え入りそうだった。
「勇者よ。この三つのエグラストーンが私からの進物です」
ニコリと無理に笑う女神に勇者は答えた。
「あと、おうまたんのぶんも欲しかったけど、もう眠いからまぁいいか。バッバーイ。バッバーイ。またねー」
女神を含む三人が苦笑い。
勇者はさんざん待たされてお腹がすいたのか、腹をさすりながら焚き火の方向に向かっていった。
その様子をハスキーはため息をついてニヤリと笑った。
「まったく、大したタマだ。大人物だぜ」
「ホント。やっぱり勇者さまってとこかしらね?」
「ふふふふ」
後にコボルドたちは、この地に石碑と偶像を立てて女神リフィトを祀った。卵の殻に小さいロウソクを入れ、エグラストーンをかたどったものを飾り、春や秋には大祭を開いたのだった。