第40話 コボルドの城1
次の日、コボルド隊長のハスキーは、城の中で失ってしまった武器の代わりのものを探した。
その後ろを勇者がおぼつかない足取りでついてくる。
「ねー。おじたん何してんの~?」
「おうボーズ。昨日の戦いで剣を失っちまったからな。代わりの武器を探してたんだ」
「へー。そーなんだー」
「分かったような分からねーよーな返事だな」
城の中は整理整頓が行き届いていなかった。
辺りにゴミや道具が散乱している。リザードマンはこういうのが好きなのかもしれないが、もしここに良い武器があっても探しきれない。
「きったねーなー。困ったもんだ」
「汚いならねー。おかーしゃんが片付けてくれるんだよ」
「ああ。おっかさんか。ボーズのおっかさんは元気か?」
「おかーしゃんはねー、もう死んじゃったんだ」
「ん? そーか。悪いこと聞いちまったな」
「でも、おねえたんがいるから平気なんだ」
「おお。そーか。そうだな」
「あとおじたんも」
「おいおい。オレは付け足しかよ」
「くふふ。ウンチ」
「ウンチ今関係ない!」
ハスキーは一部屋一部屋、見て回った。
勇者は楽しそうにハスキーが一度みた場所をもう一度覗き込んでいた。
「そこはもう見ただろう」
「どは」
「なんだその笑い声……。ところでボーズ。オマエに頼みがある」
「なに~?」
ハスキーはためらいがちだった。
なかなか言葉が出て来ない。
しかし、恥を忍んでの頼みだった。
「実は、我々コボルド族は土地を持たない流浪の民なんだ。他の土地にも点々として、魔王様の尖兵として働くしかできない。だからこそ人間とのいざこざで命を簡単に落としてしまう」
「ふーん」
「だから、この城主を失った城が欲しい。ボーズはこの城の城主を倒した。だからこそオマエに権利がある。どうか、我々コボルド族にこの城を譲ってくれ。もしもくれるなら、オレたちはボーズのために一生懸命働こう!」
「うん。いーよ」
「ほ、ほんとか? 意味が分からないのに良いっていってるんじゃないだろうな?」
「違うよー。おじたんの家族には家がないから、このお城が欲しいんでしょ?」
「お、おう。まぁそんな感じだな」
「おじたんの家族が幸せになれるならいいや。そしたらボクも幸せだよ~」
「へへ。ありがてぇ。さっき言った通りだ。コボルド族はボーズに力を貸すことに決めたぞ!」
コボルド隊長のハスキーがそんなことを勝手に決められるのか?
しかし、ハスキーの言った通り、コボルド族は魔族の中でもないがしろにされている。
前線に立たされ、後陣のものが旨い食事を食べている中、水も飲めずに血を舐めるありさまだ。
きっと城さえあれば一族は、勇者に鞍替えするだろう。
ハスキーの部下たちはハスキーの後を追ってここに来る。
彼らは匂いを追ってくるのだ。
そしてこの城に、書き置きでも置いておけば、ハスキーの考えがわかり、各地に散ってコボルドの一族をここに率いてきて守るだろう。
勇者のために物資を送ることだって出来る。
偵察をする人員だっている。
知らず知らずのうちに、勇者は心強い一族を仲間に引き入れることとなった。