第4話 淡水半魚人
勇者と少女は街道を次の村を指して歩いていた。
目標は西の都サングレロ。そこで近々、作物の収穫を祝う大祭がある。そこに行きたいのだ。
だが少女は道の真ん中で勇者を呆れ顔で見ていた。
というのも、勇者は小川があるとついそれを見つめてしまう。
今日も今日とて、小川の中で煌めく小鮒のうろこを見つめていた。
「あ。いた。おたかなたんがい〜っぱい」
「勇者さま。早くしないと西の都のお祭りも始まっちゃうかも知れませんよ」
「う~ん。だってね~あのね~。ボク、ボク、おさかなたんと遊びたいんだよね~」
そう言って見つめる小川の中。
メダカの群れやのそのそ歩くザリガニ。カエルが縁に上ろうとしているが泥で滑って上れない。勇者は近くの草を折ってカエルの前に差し出してやった。
その間、少女は思いついたように道のかたわらにある大樹の影に隠れた。息を潜めて勇者を見つめる。
カエルがようやく草にすがって、泥の岸を登りかけたのを見てニンマリと笑った。
「おねえたん、見て~」
勇者がクルリと振り返るとそこに人影はない。
驚いて眉毛をハの字にしてそこに立ち尽くした。
「あれ? おねえたん!」
しかし返事はない。聖剣の鞘をガチャガチャ鳴らして土手から街道に躍り出た。
「はーはー。おねえたん! どこ!?」
しかし返事はない。少女は大樹の影から勇者を覗き、口に手を当てて笑った。道草ばかりを食らう勇者を少しばかり懲らしめてやろうという考えだった。
勇者は元来た道を少しばかり戻り、キョロキョロと辺りを見回した後で、大樹の木の下まで来てまたキョロキョロ。
「おねえたん! おねえたんがいない! わーん! ひーん。ひんひん」
その場で立ち尽くして泣き出してしまった勇者が可哀相になって少女が木陰から出ようとすると、小川の深水から音を立てて現れたのは淡水半魚人だった。
辺りに生臭い匂いが立ちこめる。ナマズの顔で手には水掻きがあるものの、人のそれと変わりはない。そこには三つ叉の槍が握られていた。
「こなくそ。もう少し土手にいれば水の中に引きずり込んでやったものを。旨そうな人間の子どもめ!」
「お前だな! おねえたんをさらったのは!」
ザッツ勘違い。勘違いで倒されてしまうのも気の毒だが、この魔物も人に危害を加えるものには違いない。街道を歩くもの、馬車の馬など水の中に引きずり込んでは食べてしまう、恐ろしい魔物なのだ!
「許さない。おねえたんを返せ!」
勇者の言葉が炎をまとう魔法の槍となり、淡水半魚人の身を貫き、香ばしい蒲焼きのような匂いが辺りに漂った。
「勇者さま、ここですよ」
少女が木陰から現れると、勇者の顔が緊張から緩んだ。
「あれ~。おねえたん、どこいってたのぉ~?」
そう言いながらたどたどしい足取りで少女に近付き、その足に抱きついた。
「ねぇ、おねえたん。ダッコ」
「はいはい」
少女は勇者を抱きかかえ、数十歩歩くと勇者も落ち着いたようで、自ら少女の腕から降り手を繋いで歩き出した。
西の都へ──。