第39話 三人
勇者はミューの方を振り返る。
ミューはそのまま涙を浮かべた。
「えへ。おねえたん」
「ゆう……勇者さまぁ……」
二人は抱きしめ合う。肉親でもないこの二人だが、長い旅で築き上げた信頼関係。
見つけられないと思った。たどり着けるなど万にひとつもないと思っていた。
だが来てくれた。ミューにとって、幼児でも勇者は勇者であった。
「おじたんが助けてくれたんだよ」
そう言う勇者の指先にはコボルド隊長。
彼はトッカリの遺骸より『沈黙の宝玉』を拾い上げ、自分の首に下げていた。
「隊長が? な、なぜ?」
「お嬢ちゃん。一飯の恩義により助太刀に来たんだ。まぁ、子どもだけの旅は危険だしな。仲間たちは温泉で静養してるよ」
「そ、そうなのね。本当に助かったわ。隊長のお陰よ」
「へへ。よせやい」
ミューは続いて聖剣グラジナに触れてみた。
普通に鉱物を鍛造した名剣だ。
とてもドラゴンには見えない。
「ゆ、勇者さま。これってドラゴン?」
「ん~~? わかんない。グラジナだよー。聖剣グラジナ」
どうやら、金皇竜、聖剣グラジナもその姿を見せたのは初めてのようだった。
「普段は眠っているのかしら? そうだわ。勇者さま。城の中にまだマントと兜がありますよ!」
「そーなんだ」
「そーなんだじゃねぇ。のんきかよ。城の中に入って探そう。オレは食料を探してくる。お嬢ちゃんに旨い夕飯を作って貰わなくちゃな」
コボルド隊長の城に入る姿を追って勇者とミューもそこに入っていった。そして勇者の至宝の装備に一日ぶりの対面を果たし、おさまるべき場所に身につけた。
「やっぱり勇者さまにはそのお姿が似合いますわ」
「えへへ。おねえたんありがと~」
二人が外に出ると、城の中から見つけたのであろう食料と食器を脇に置き、隊長はかまどを作って火をつけていた。
「お。装備を見つけたな」
「えへへへへ」
「へー。隊長もいろいろ見つけてきたね」
「これから三人の旅になるからな。たんまり食料見つけてきたぞ」
「え? あなたも旅に加わるの?」
「あったりめーだろ? 子ども二人じゃ心配だからな」
「わーいわーい。三人で旅だ~」
「あなた最初にあったときに私たちを食べようとしたわよね?」
「ああ。あれはウソだ。脅かすために言っただけさ」
「なぁんだ」
「時にお嬢ちゃん。生肉があったんだ。鍋にしてくれ」
「ミューよ」
「え?」
「私の名前」
「ほー。ミューか」
「隊長は?」
「オレか。オレはハスキーだ」
「ハスキーね」
「おいおい。隊長って呼んでくれよ。お前たちいくつだよ」
「私は15よ」
「ボクねー。あのねー」
勇者は必死に指を三本立てようとしたが、薬指について小指まで立ってしまう。親指で小指を封じようとするが、それもなかなか届かず、変な形になったものを二人に見せた。
「さんしゃい」
「三つかよ。指が頑張りすぎてプルプルしてるじゃねーか」
「くふふふふ。ねぇ。おじたん遊ぼー」
「そうだな。飯が出来るまで遊ぶか」
新しい仲間が勇者と遊ぶ姿に、ミューの中に温かいものが込み上げる。三人はその晩、城の一室で眠り、次の日に荷車に向けて出発しようと相談がまとまった。