第38話 カイザードラゴン2
金皇竜はミューを閉じ込める牢を易々と破り、壁に大きな穴を開けた。
そこからは勇者と隊長の姿がよく見えた。
迫り来るリザードマンの軍勢に隊長に肩車され、楽しそうに笑っている。隊長はただ勇者を守るために担いでいるだけなのだが。
「勇者さま!」
「あ! おねえたん!」
「お。お嬢ちゃん。今は助けに行くどころじゃない!」
大ピンチである。ミューの眼下では、勇者とコボルド隊長が捕らえられようとしていた。
「これ。女童。私の背中に乗りたまえ」
「え? は、はい」
ミューは金皇竜の背中に飛び乗り、長い首に抱きつくと、金皇竜はその翼を広げ、勇者目掛けて飛んだ。
迫り来るリザードマンを風圧で薙ぎ倒し、勇者の前に威風堂々と舞い降りた。
「あ。ドラゴンだ」
「おや勇者、少しばかり縮んだかしら? うーむ。人間などどれを見ても同じに見える」
「くふふ。なんかしゃべってるし」
「勇者よ。私を忘れたか。私こそ聖剣グラジナだ」
「あーーー」
勇者がマヌケそうな声を出して思い出したとき、金皇竜は元の聖剣の姿に戻った。
「な、なんと! 聖剣グラジナだと? お前たち! 勇者に聖剣を渡すな!」
リザードマンのトッカリが叫ぶと軍勢が勇者たちに襲い掛かる。
ぼうっとしている勇者に代わって隊長が聖剣に走り、つかんで勇者に投げた。
「あ。グラジナだぁ」
勇者はそれを抜く。もはやただの幼児ではない。
取り憑かれたようにその場でひと回転。
「シャイニングブレイク!」
光の波動がリザードマンたちを突き抜ける。
そこにはバタバタと倒れた兵士たちの亡骸が累々。
トッカリはグッと勇者を見据えていた。
「くっ。お見事」
そう言うと、体が二つに分かれて上半身が地面に落ちる。
勇者の大勝利であった。