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第37話 カイザードラゴン1

ミューは城の中で心配でならなかった。

勇者の声がしてから、城主が大軍をまとめて城を出て行くのが聞こえた。

しかし、丸腰だ。武器や防具はここにある。

このままではいくら勇者であろうとなぶり殺しにあうのではないかと、そこに泣き伏してしまった。


「これ。何を泣くか。人間の女」

「え?」


ミューは辺りを見回すが人影はない。

そこには勇者の装備が釘や鎖、石で固められているだけだ。

さらに見回すがやはり何もなかった。


「……空耳……かしら……」

「ここだ。粗忽者め」


声のする方。そこには勇者の聖剣グラジナがあった。

鎖で壁にくくりつけられていたが、柄にある宝玉に目玉が現れた。


「キャ……!」

「なにがキャだ。私は聖剣グラジナだ。勇者はどこへ行った」


「あの……私たちの方がさらわれてもしまって……」

「そうか。そうか。あのマヌケめ。……はぁ? 我々が? 我々の方がさらわれただとぉう?」


「そ、そうです」

「何たることだ。このグラジナ様とあろうものが」


「あの~……」

「なにかね?」


「話せるんですね」

「当たり前だ。空気を振動させ、そなたにも聞こえるようにしてやっているのだ。得心とくしんがいったか?」


「いきました」

「さもありなん」


突然のグラジナからの会話。

しかもかなりのおしゃべり。

あの生き物のように動いていたのは、生きているからなんだと分かった。

しかし、彼……彼女かも知れないが、それは今がんじがらめに縛られている。


「あの~。どうなされるので?」

「知れたこと。勇者の元に帰るのだ。あやつは私がいてやらんと使命を果たせんからな。はははははは」


「しかし、それでは……」


グラジナが宝玉の中で目玉をぐりんと動かすと鎖で身を固めている。驚いて目を真ん丸くした。


「な、なんと! 身を固められているとは」

「やはりダメでしょう?」


「ばかな。この程度大事ない」


鎖が揺れて音を鳴らす。

剣が自ら動き、飛び上がったり、反転しようとしている。


「よっ……。くっ……。ふんぬっ……。そりやぁ……。よっこいっしょーー……!」


声だけだ。鎖はびくともしない。

ミューは苦笑いした。このプライドの高い聖剣が、鎖から抜け出れないのを知ったら恥ずかしがるだろうと、壁の方を向いて見ないようにした。


「はぁはぁはぁはぁ」

「まぁ無理なさらないでも……」


「は、はぁ? 無理なんてしてませんけどぉ? 今のはほんの準備運動なんですけどぉ? 本番はこれからぁーーっ! そりゃーーっ! もうちょっとーーっ!」


全然外れる気配がない。ミューは聖剣を少しばかりあてにしたので落胆した。聖剣はその手に取るようにわかるガッカリした顔を見て焦ったように切り出した。


「し、仕方ない。奥の手を使うか……」

「奥の手なんてあるのですか?」


「こうする」


聖剣は徐々に形を変える。

大きくなる。大きくなる。

鎖が引きちぎれ、城壁も崩れる。

持ち手の部分が長い首と翼になり、刃の方が胴体となる。

その姿は光り輝く金色の竜となった。


「あ、あなたは……」

「ふふふふ。どうやら驚いたようだな。私は聖剣グラジナ。その正体は金皇竜カイザードラゴンである!」


金皇竜は神の御使みつかい。神の乗り物。

人語を解し、人々に幸福と平安を与え、悪魔を退ける伝説上の生き物。

さすが勇者。それを腰に帯び、ともに戦って来ていたのだ。

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