第36話 リザードマン3
その時。激しい鳴り物とともに、旗指物を持った兵士を先頭に、ぞろりぞろりとリザードマンの軍隊が現れた。
多勢に無勢どころの騒ぎではない。
白兵戦ならまるで勝ち目がない状態だ。野戦とは言え、彼らは旗色が悪くなれば後ろの城に逃げ帰ることが出来る。もっともこの状態では逃げる必要などない。
前にいる二人を討ち取ればいいだけなのだから。
しかしコボルド隊長には勝ち味があった。
勇者は魔法が使える。それも見たこともない強大なやつだ。
あの軍勢だって蹴散らしてしまうだろう。
「おいボーズ。あれは敵だぞ。勝てるか?」
「うん。大丈夫だよ」
やはり。無邪気だが自信がある。
コボルド隊長は進んで前に進んだ。
「やいやい。大将はいるか? ここにおわすお方は我らを平和に導く勇者様だ。早々に道をあけ、勇者様より盗んだお嬢ちゃんと宝を返して貰おう!」
そこに、ミューをさらわせたリザードマンが前に進んで姿を現した。
「儂が勇者討伐を仰せつかさったこの城の城主、リザードマンのトッカリよ。ここがお前たちの墓場となるのだ! ゆけ!」
トッカリの号令によってリザードマンの兵士たちは大剣を携えて走り出す。
隊長は魔法で攻撃しやすいように、存分に敵を引きつけた。
そしてタイミングを見て、勇者に声をかける。
「先生! お願いします」
「なにを~?」
「のんきかよ。魔法だ。魔法で攻撃するんだ!」
「うん!」
勇者は魔法の御題目を唱えると、その周りに光があつまり、バチバチと音を立て始めた。
「ギドライガーーッ!」
激しい稲妻が辺り四面を覆い、リザードマンの軍勢に襲い掛かる。
しかし、その稲妻は固まって大将のトッカリの胸に吸い込まれてゆく。
「な、なんだぁ?」
「ふふふふ。これぞ魔法のエネルギーを吸い込む『沈黙の宝玉』よ。魔王様に賜った至宝の一つよ」
「なんだと? こ、こりゃ大ピンチだ!」
あっという間に周りを囲まれた二人。
「おじたん。剣を貸して」
「お。得意の剣術だな?」
隊長が剣を渡すと、勇者は素早く回転した。
「シャイニングブレイク!」
光の波動が前列のリザードマンたちを薙ぎ倒したがそこまでだった。隊長の細身の剣は激しい動きに耐えきれず、根元から折れてしまったので威力が半減したのだ。
「あり。折れちった」
「折れちったじゃねぇ。折れちったじゃねぇーわー」
寡兵よく大軍を破ると言うが、このままでは為す術なく捕らわれるだけだ。二人はどうするつもりなのか?