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第35話 リザードマン2

隊長が困っている頃、ミューは勇者の呼び声を聞いていた。

だが、牢の中からはその姿が見えない。

空耳かも知れないが、思い切って呼び声に答えた。


「勇者さまーーー! ここですよーーー!」


それは石造りの牢の中で大半は跳ね返ってしまったが、勇者と隊長にもミューの声は聞こえてきた。


「おねーたーーん! 今助けるよーー!」

「へ。間違いねぇ。あの城の中にお嬢ちゃんがいるらしいな。ボーズ下がってろ。オレが道を切り開いてやるぜ!」


隊長は勇者の前にたち、ミューは牢の中で勇者の救援を待った。



コボルド隊長とリザードマンの兵士が対峙する。

リザードマンの身長は2メートルほど。それが8騎。

対すコボルド隊長は170センチメートルほどだ。

手に握るのは細い長剣。リザードマンは幅の広い刃のあるダンビラ。

戦いは圧倒的に不利だった。

勇者の援護は期待できない。彼には剣も鎧もないのだ。

こっそり忍び込んで助けることも出来たかも知れないが、今となっては戦うしかない。


「やい。退却するなら今のうちだぞ?」


隊長は精一杯強がってみたが、相手は不気味に笑うだけだ。

隊長が息を飲む。多勢に無勢。相手は余裕だ。二人を囲んでしまえば捕らえることができる。

だがその余裕が弱点だとばかり、隊長は手袋に仕込んでいた小さいナイフを先頭の二体に投げつけた。

それが喉笛にヒットして地面に倒れる。


「お。コイツなかなかやるぞ。おい。盾を構えろ」

「コイツ、生かしちゃおかねぇ」


まだ余裕に構えているところの一体のクビ元を剣の切っ先で突く。

細身の剣は切るためではない。突く。

それによって殺傷能力は高くなる。

決して深くは突き刺さない。深く刺してしまうと、抜けなくなるリスクがあり、次が打てなくなる。

隊長の剣術はまさにそれを上手く扱っていた。


「ボーズ。オレに何かありそうなときは、城に向かって走れ。お嬢ちゃんを助けるんだ」

「おじたんはどーするの?」


「大丈夫だ。なんとかなる」


残り5騎。だが完全に囲まれた。

隊長の体に嫌な汗が流れる。勇者を足元に置いては上手く動けない。

隊長は横目で相手の布陣を見ていた。


まず、勇者を放り投げてこの布陣から脱出させる。

目の前のリザードマンを突き伏す頃には後ろの兵士が襲い掛かって片手を取られるかも知れないが、剣を引いた肘でその顔を突き、怯んだところで勇者の元へ駆け、剣を持たない手で服をつかんでひたすら走る。

追いかけてきたら立ち止まり、一人を討つ。

一人の能力はバラバラだ。駆ける差が出来るだろう。

その間隔を突く。


隊長はこの多勢の中から抜け出る方法を瞬時に考えた。


まず、勇者をつかんで城に向かって放った。

そこをリザードマンが見逃さなかった。

勇者は空を飛ぶ。だが隊長は太い腕のリザードマンに叩き付けられ地面に倒れてしまった。


「捕まえたわい」


リザードマンが隊長を掴み上げ、仲間を殺された腹いせとばかり殴りつける。

その頃、勇者も無様に地面と衝突して涙目になっていた。


「いたいよぅ。いたいよぅ」


そうグズる勇者の後ろでは隊長は私刑リンチを受けていた。

簡単には殺さない。勇者に寝返った裏切り者。


「このクソが。なぶり殺しにしてやる。裏切り者め」


そう言うリザードマンに隊長は口の中の血を吹き付けた。


「ヤロウ!」

「ふん。もううんざりなんだよ。どーせオレたちコボルドは捨て駒だろ?」


「当たり前だろうが。お前はそう言う出自なんだよ! 親を恨め!」

「けっ。親なんてとうの昔に捨て駒にされちまったわ」


隊長は羽交い締めされ、殴られ、蹴りつけられた。

勇者はようやく音に気付いて振り向く。


「おじたん!」


隊長はニヤリと笑った。


「バーカ。心配すんな。すぐにコイツらぶち殺して追い付くからよ。さっさとお嬢ちゃんのところへ行け」


そう言う頬を殴りつけられ、隊長は力なくこうべを垂らした。勇者はそれを見て何事かをブツブツと呟きだした。


「オーリアーリ かれのいたみは だいちのいたみ ひとのいたみ ひいてはてんのいたみ きずをいやし へいあんをあたえよ アーリオーリ」


その物言いに気付いたリザードマンはただ一瞥しただけで、気にも留めない。だが勇者の手のひらから光溢れる魔法が隊長を包む。


「クリニク!」


勇者のその声に、隊長の体の中に爽快感が溢れる。上級の回復魔法だった。殴られ血が流れていた場所は塞がり、毛並みも見事に整った。


「は、はぁ?」


隊長は顔を上げて勇者を見ると、すでに違う魔法の言葉を呟いていた。


「よくもおじたんを殴ったな悪者め! ダイボルガー!」


たちまち勇者の前に大きな火球が現れ、隊長の周りを回転してリザードマンを焼き切ってしまった。


「ぼ、ボーズ……」

「おじたん、大丈夫?」


「オマエ、魔法が使えたのかよぉ……」

「うん。魔法の先生に褒められたんだ。んーと、んーと、おりこうさんだって。えへ」


「早く言え」


隊長はその場に膝をついて、さらに大地に寝転んでため息をついた。

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