第34話 リザードマン1
その頃、勇者とコボルド隊長を乗せた荷馬車は正確にリザードマンの城に向かっていた。
急いでいるので道なき道だ。平坦ならばそれでいい。
だが途中から山道となり、石がゴロゴロし始め、車では進めなくなった。
「仕方ない。ボーズ。ここからは歩くぞ」
「うん。おねえたんを助けに行くんだモン。ボクへっちゃらだよ」
隊長は荷車の車輪に車止めの石を置き、ロバを外してやった。帰ってこれない時、このままではロバは荷車を付けたままになってしまう。それは気の毒だからだ。
「オレたちは戻ってくる。オマエは利口だからな。ここに戻って来いよ!」
ロバはしばらく近くの草を食んでいたが、そのうちに平原を探して行ってしまった。
「バイバーイ。おうまたん」
「よし行くぞボーズ。ここからまだしばらく歩かなくてはいかん」
隊長は背中に少量の食糧を入れた荷物を背負い歩き出した。
勇者もそばで元気に歩く。
隊長のカンではおそらく10キロメートル先ほどだ。
そこからミューの匂いがする。
だが今の勇者に武器はない。戦闘となったらどうするか考えた。
さらった者がなんなのか分からない。
情報がないので戦略を練りようがなかった。
子どもの足に10キロメートルは遠い。
隊長は戦闘訓練を受けたコボルドだ。背中に荷物を背負っていても10キロメートルくらいの山道は1時間もあれば走破できる。
しかし彼は違う。少しの坂道にも手こずっていた。
「んーしょ。んーしょ」
「ほいほい。あんよがじょーず。頑張れ頑張れ」
元気付けていてもこのままでは日が暮れてしまう。ミューの安否も気がかりだ。
「ボーズ。ダッコしてやろうか?」
「やーだ。自分で~。自分で~」
イヤイヤ期だ。自分で大人並みに出来ると思っている。
しかし、それに付き合っていては困ったことになる。
「どーだ。肩車してやるか?」
「かたぐるま~?」
喜んでいる。単純だ。ただ、ダッコと違い肩車はバランスが難しい。ましてや、自分の頭の上に勇者の頭があるのだ。木の枝や蜘蛛の巣にも気を配らねばならない。
しかし、隊長は訓練された兵士だ。ひょいと勇者を肩の上に乗せたと思うと走り出した。
「うわー! すごい!」
「どーだボーズ。楽しいか?」
「たっのちー! ひょー!」
隊長は山肌を蹴り、石を渡り、大樹の枝を登りながらかけた。
ふと見える山城。蔦に巻かれた石造りの城がある。
「あれだ。ボーズ。あそこにお嬢ちゃんがいるぞ!」
「あ、あそこかぁ~」
隊長は勇者を肩に乗せたまま、城に向けて走った。
「おねえたーーーん!!」
「ば、ばか!」
突然、勇者のミューへの呼びかけに隊長は叫んだ。
これでは敵にここに居ますよと教えているようなものだ。
武器は自分の腰に帯びた細い剣が1本だけ。
防具も自分が身につけている薄い鉄の胸当てが1枚きりだ。
隊長は急ブレーキをかけそこに立ち止まり、勇者を肩から下ろした。
「何するの~」
「何するのじゃねーよ。のんきかよ」
隊長は自分の胸当てを外し、勇者の小さな体に着けた。
小さいので、胸当てのベルトが二周、三周。
自身は腰の細剣を抜いた。
「ボーズは木の枝でも剣術が出来るよな?」
「剣術ってなに?」
「な、なんだと?」
隊長の焦りとは裏腹に、勇者の呑気。困ったものだが子どもなので仕方ない。
そうこうしてると、城の中からぞろり、ぞろりとリザードマンの兵士が出て来た。
「り、リザードマン!?」
「どーしたの?」
「どうしたも、こうしたもねーや。オレたちと違って本格的な戦闘集団だ。こりゃ困った」
時間が無い。隊長はすぐさま剣を構えた。