第33話 コボルド隊長2
勇者と隊長は荷車の幌の中で共に眠った。
隊長に元のような悪心があれば勇者に触れることもできないだろうが、今の隊長は勇者を抱いてやれる。
一枚の毛布の中で寄り添って眠った。
次の日、勇者が起きるとミューも隊長もいなかった。
勇者の眉毛はハの字になり、荷車から飛び出した。
「おじたーーん!」
辺りを見回すと、遠くで手を振りながら隊長が笑顔で近づいてきた。
「おじたん!」
「よう。起きたか。ボーズ」
「おじたん、どこ行ってたの~?」
「これだこれ。朝食に食わせようと思ってな」
「あ。タマゴだ!」
「おう。タマゴのタマちゃん。鳥モンスターの巣からかっぱらってきた」
隊長がちいさなフライパンにタマゴを二つ落とすと、高い音を立てて香ばしい香りが広がった。
「黄身の固さはどのくらいがいいんだ?」
「ボクね~。カッチカチ~」
「おおそうか。じゃぁ、蒸し焼きにしてやろう」
少しばかりフライパンに水を注いで蓋を閉じる。
蓋の中がジリジリと音をたてて出来上がったものを器に入れる。
鳥モンスターのタマゴは大きい。通常のタマゴの二倍ほどだ。
小さい勇者は半分だけ食べてお腹いっぱいになり、残りを隊長が平らげた。
「ボーズ」
「うん」
「出発するぞ」
隊長の勇者への呼び名が『ボーズ』に変わった。彼はさっと食器とフライパンを小川で洗い、ロバを荷車に取り付けるとそれに飛び乗った。
「どこに~?」
「のんきかよ。お嬢ちゃんを助けに行くんだろ?」
「あ。そうだ!」
勇者の手を引いて自分の隣りに乗せてやり、荷車を出発。
隊長の鼻が頼りだ。隊長はそちらに馬首を向けた。
その頃、ミューは古い石造りの城にある牢屋の中にいた。
彼女は勇者のことを心配していた。彼は幼子だ。今頃腹を空かせて倒れてしまっているだろう。
どうにかならないか。どうにか逃げることはできないものか。
目の前の鉄格子を揺さぶってみるが、ビクともしない。
窓は高い場所にあるが、それも一つ一つが小さい。体を通さない。
それを見ていたものは、ミューをさらった盗賊団の依頼者であるリザードマンだった。
「けっけっけ。無駄なことを」
それをミューは睨みつける。
「満足でしょうね。勇者さまは今頃荒野で一人倒れているわ。可愛そうに。相手は子供よ!」
「だが我々の敵だ」
リザードマンの後ろには釘で壁に打たれた聖王のマント。鎖で巻かれた聖剣グラジナ。石で固められたフェニックスの兜。
勝手に動き出すかもしれないとしての措置だった。
「ふん。貴様も殺してしまいたかったが、なぜか勇者と同じ加護があり、刃を受け付けぬようだな。そこで飢え死にするといい」
そう言って、城の奥に引っ込んで行った。
この古城は元は人間のものだったのであろう。精密な造りだ。
だが今は彼のもの。城主のリザードマンの他に部下のリザードマンや役に立った盗賊が陣取っていた。
この戦功で城主リザードマンは魔王に認められ出世するだろう。
城主は玉座の間でほくそ笑んでいた。
ミューは牢の中で落涙した。どうすることも出来ない。
勇者はどうしているのか? その安否が気がかりだった。