第30話 バンディット
勇者とミューの旅は、寄り添いながら荷車に揺られてまだまだ続く。
地図も案内板もない旅。感覚だけが頼りだが、道の数がそれほど多いわけでもない。
魔王に土地を追いやられて人の往来が少なくなったためだった。
滅多に旅人に会う機会などない。
とても珍しいことだ。だが、時折武装した商隊を見かけることもあった。
人の姿が見えるというのは心強いことだ。
「あら?」
道の傍らに、商隊が休憩しているのが見える。
石の上に数人腰掛け、火を焚いて茶を飲んでいるようだった。
ミューはそこに荷車を停めると、商人たちは一斉に顔を向けた。
「おや珍しい。しかも子どもだけの旅とは」
「ええ。そうなんです。しかしあなた方もこの状況下で旅とは。お互い大変ですね」
「わー。人がいっぱいいる~」
「どうかね? お茶でも飲んで休んで行ったら」
「いいんですか? すいません」
ミューは荷車を停め、勇者と共に商人たちの招きに甘えてお茶とお菓子をもらった。
「すごーい。このお菓子あまーい」
「すいません。高価なものでしょう?」
この時世、砂糖は大変高価なものだ。
祭りや記念日にしか口に入れることができない。
子どもたちは野に自生する木の実をとって甘味を得るのだ。
だがここにある焼き菓子には砂糖が入っている。
ミューの驚きは当然のことだった。
「いえいえ。勇者さまに休んでいただくのですから当然のことです」
「……え? なぜ勇者さまと?」
「ふふふふ」
商人たちは不敵に笑う。
「ねー……。おねーたーん。ボク眠くなってきた……」
「は!」
ミューにも眠気が襲ってきた。
このお茶かお菓子に、薬を盛られていたのに違いなかった。
「な、なんてことを……。こんなことをしても勇者さまは無敵よ……」
「らしいな。だがワシらの依頼者は、お前をさらえとのことだった。ふふふふ……もう聞こえないか」
ミューのまぶたもすでに閉じられていた。
商人たちは人間に見えるだけの土の小人の一族だった。そして盗賊だ。
勇者を踏もうとしても勇者には一枚の壁があるようで触れることができない。
盗賊たちはミューを肩に担ぎ、勇者から聖剣グラジナを引っぺがし、聖王のマントやフェニックスの兜まで取り外してしまった。
至宝の装備を全てなくした勇者だけをそこに置いて北を指して去って行った。