第3話 コボルド2
「あ。ドングリみーっけ!」
突然しゃがみ込む勇者に、訓練を積んだコボルド隊長もバランスを崩しヨタついた。
「なんだ。石か~」
そう言って立ち上がった頭の上にはコボルド隊長の股間。
隊長は目を白黒させながら股間を押さえて倒れ込んだ。
「く、くくくくぅ~。くぅ~」
「あれ? おじたん、どうちたの?」
「ゆ、許さんぞ、人間のガキめ」
涙目になりながら勇者の方を見ると、彼は1本の棒を持っていた。
長すぎず、短すぎず。手頃な長さ。
それが放物線を描きながら高く放り投げられる。
「ワンワンとってこい!」
「ワンワンワン!」
コボルド隊長は思わず四足歩行で走り出し、まだ着地していない棒切れを空中で見事にキャッチ。
「ハッハッハッハッ」
「エライエライ。お手は?」
出された勇者の小さな手のひらに己が手を乗せる隊長。だがハッと気付く。
「おんのれ~。良い根性してるじゃねーか。お前ら。やっちまえ!」
「おう!」
コボルドたちは己の得物をとって大立ち回り。……と思ったが、勇者と少女は手を繋いで走っていた。
「追いかけっこだ。おじたんたちが鬼だ。わーい」
「何でだよ!」
隊長をはじめ、部下たちは勇者たちを追う。
本当に楽しいのであろう。勇者からゲラゲラと言う笑い声が漏れる。しかし12柱の神々より祝福を受けたと言っても所詮は幼児。訓練を受けた兵士に敵うわけもない。
隊長は勇者のたなびくマントをふん捕まえた。
その拍子に体重の軽い勇者は空中に舞い上がり背中から落下。
大きな音を立てて地面と衝突した。
「ふん。ガキを捕まえたぞ。女を捕まえろ」
「ゲラゲラゲラゲラ。おもちろーい! ねぇ、もう一回」
「は、はぁ?」
「ねぇ、高い高いしてー」
「誰がするか!」
コボルドの隊長から見れば勇者は人間の子ども。コケにされて面白くない。そのうちに部下たちが女を捕まえた。
「隊長。女を捕まえました」
「でかした。やい坊主。今からお前とこの女を煮て食ってやる」
「あっ! さてはおねえたんを煮て食べるつもりだな!?」
「……そう言ってるんだよ。あとお前もな」
「許さない。許さないぞ~」
勇者が手に取ったのは、たきぎ拾いの時に見つけた、カッコいい棒。それを二刀流に構えるとコボルドたちは笑い出した。
「はっはっはっは。何だありゃ」
「本人は、剣をとって戦うつもりなんですよ」
「面白い。相手をしてやろう」
一匹のコボルドが立ち合おうと躍り出ると、勇者は光る駒のように回転してコボルドの中を駆け抜けた。
「ダイヤモンドスプラーシュ!」
勇者が叫びながら連撃すると、コボルドたちはそこにバタバタと倒れ込んだ。
「すごいわ。勇者さま」
「えへへへへ」
数分後にコボルドたちは目を覚ました。所詮棒切れで叩かれた打撲。気絶しただけだったのだ。それに気付いた勇者。
「あ。起きた。ねーあそぼー」
「ひぃ、か、敵わねぇ!」
隊長は部下たちをまとめて去って行った。