第28話 コボルドと魔法使い4
その時。茂みの中から小人が現れた。正面に炎の魔法使いブレイ。後方に氷の魔術師ブリサ。二人は魔法の杖をこちらに向けた。
「押さえよ!」
コボルドたちへの命令だった。
だがコボルドたちは動かずうつむいてしまった。
隊長も、眠そうな勇者をかばうように移動した。
「や、やめろ。こんな可愛らしい女、子どもを襲うなんて」
二人の魔法使いは、苦笑してため息をついた。
「ふん。そんなことだろうと思った。犬だもんな。一飯の恩義ってやつか。どちらにせよお前たちは捨て駒だ」
「な、なに?」
「お前たちにそいつらを押さえつけさせて魔法で一網打尽にする計略だったのよ。どちらにせよこの距離なら同じことだ。お役目ご苦労さん」
二人は同時に魔法を唱えると、炎と吹雪が中央でぶつかり合い、爆発をおこした。その爆発で土煙が舞い上がり、辺りが黒く覆われた。ミューとコボルドたちは大きく咳き込んだ。
視界が悪くなり、息が苦しい。蒸気で体が蒸されるようだ。
「くそ! こう言う技なんだ! 勇者!」
「ん~……?」
眠る時間。勇者には神の加護があるので平気のようだ。
このままでは、勇者が寝ている間にミューやコボルドたちは死に、ミューがいなくなってしまえば勇者の世話をするものがいなくなり、彼も死ぬだろう。
コボルド隊長は何とか勇者に起きて貰おうと必死だった。
続いて第二波が来る。だがコボルドたちは真ん中で爆発させまいと、魔法の前に立ち、自らの体でそれを受けた。
「のわーーー!」
「お、お前たち! おい。勇者! このままでは全滅だ! 起きろ! 起きたら高い高いしてやるぞ!」
「え? 高い高い?」
勇者はパッと跳ね起きて驚いた。遊んでくれたコボルドたちが傷を受けて転がっている。見ると、魔法使いたちが次の魔法を使おうとしていた。勇者は、大きな声で叫ぶ。
「グラジナー!」
勇者が聖剣の名を呼ぶと、聖剣グラジナは自ら鞘より飛び出して、二人の魔法使いを有無を言わさず切り倒した。
しかし、コボルドたちは地面に倒れたまま動かない。勇者は哀しみの余り泣き出した。
「えーん。えーん。ワンワンのおじたんたちが死んじゃったよぉー!」
「……いや、まだ死んではいない」
コボルド隊長は重傷のものに肩を貸してやり起こしてやった。
自分でたてるものは自ら起き上がったが、無傷のものは隊長を除いて一人もいなかった。
「くそう。こんな味方を味方とも思わぬ扱いはまっぴらだ」
コボルドたちは、肩を落として頭に雪を被る山を指して歩き出す。ミューはそれに声をかけた。
「隊長、どこへ行くの?」
「あの山のふもとから温泉の匂いがする。そこでコイツらを保養させるんだ。きっと良くなるさ」
ミューは駆け出して、隊長の腰のベルトに干し肉の袋を結びつけた。
「これ、持っていってちょうだい。お弁当。助けてくれたみんなへのお礼よ」
隊長は、目に涙をたたえそれがこぼれないように空を見上げた。
「へへ。ありがてぇ。二人とも達者でな」
コボルドたちは温泉を目指して去って行く。それが消えるまで二人はその姿を見つめていた。