第26話 コボルドと魔法使い2
勇者とミューは街道の脇に車を停めていた。
荷車の席にミューは腰を下ろし、足を投げ出して小休止。
勇者は颯爽と馬車から飛び降りた。
「おねえたん待っててね~」
「はいはい。待ってますよ」
「ボク、ウンチ。おねえたん見ないでね」
「はいはい。ここに居ますから」
人家のない荒野では、生理現象は屋外でしなくてはならない。
12柱の神々より祝福を受けた勇者とて例外ではない。
彼は大きめの柔らかい葉を数枚取って、茂みの影に隠れた。
「おねえたーーん」
「はーい。なんですかー?」
「いる?」
「いますよ~」
「待っててね」
「大丈夫。どうぞごゆっくり」
ミューは、そう答えながら荷車の上で大きなあくびをした。
すると、逆の茂みの中から怪しい影がむせながら現れた。
「ゲフンゲフン。くっそぉ~勇者め。ウンコなんてしやがって~」
コボルド隊長とその部下たちだ。早々に駆け付け、勇者たちに追い付いた。こっそり闇討ちのようなことをしようと思ったが、勇者は用便中。コボルドの嗅覚は人間の一万倍。他愛のない勇者の便臭にも目まいを覚えたのだ。
「おねえたん?」
茂みの中から勇者がズボンを上げながら現れた。まだ半分尻が出ている。よっぽどミューに会いたかったのだろう。
しかし、荷車の近くにコボルドたちがいる。
勇者は思わず笑顔になった。
「わー。ボクのお友だちだー。ねぇ。いつ来たの?」
軽口。もはや友だちリストに登録。
遊んで貰えると思っている。
「ふふふ。来たな。勇者ぁ~。でたか。ウンコは」
「ウンチでた~」
「やかましわ」
そのやりとりにミューも思わず噴き出した。
「一体なんですか、今日は」
「ふふん。勇者と遊ぼうと思ってな」
明らかに悪知恵の予感。今度は何を企んでいるのか?
ミューは心配したが、勇者はいつものように目をキラキラさせた。
「なにで遊ぶの~?」
「勇者さま。どうせ悪巧みに決まってますよ」
「まぁそう言うなお嬢ちゃん。ちょうど昼時だ。飯にしようぜ」
ミューも、勇者がいるのでまず安心と思った。コボルドだけなら何とかなるのかも。
ミューはロバを車から放して放牧し、勇者のために火をおこして鍋をかけた。その間に勇者と数匹のコボルドは鬼ごっこをして遊んでいた。




