第23話 二人で夕食
それからしばらく、勇者を乗せた車は街道を走った。
夜は大きな木の下で火を焚いてキャンプをし、ロバを放してやると嬉しそうに近くの草原の草を食んだ。
「この調子ですと、西の都の大祭に間に合いそうですね。勇者さま」
「ほんと!? やったぁ! おっまつり。おっまつり」
勇者は両手を上げてはしゃいだ。
「……勇者さま。西の都に行く目的は覚えてますよね?」
「うん。アメを買うんだじょ」
「違います」
「じゃ踊るの?」
「違いますよ……」
「歌いながら踊るの?」
「違いますよ。勇者さまに魔法をかけたシェイドを倒しに行くんでしょ?」
「あ。そーだった」
「ふふふ。シェイドって、どんな魔物なんですか?」
「うーん。わかんない」
「わからない?」
「うん。シーシーしてたら、魔法かけられたんだもーん」
「シーシー?」
「シーシートットシー」
「ぷ」
ミューは思わず笑ってしまった。
勇者の無邪気な物言い。大人だった勇者は生理現象に耐えられず、自分の家の敷地で用を足したところを襲われたのだと分かった。もう少し先には母屋があったので、寄ってくれればいくらでもトイレなど貸したのに。
しかし、もしシェイドに魔法をかけられなければ、この可愛らしい勇者と出会うこともなかったのだろうと思うと複雑だった。
「さて。勇者さま。トウモロコシのパンが出来ましたよ」
トウモロコシの粉を練ったものを焼いた石に貼り付けて作るパンだ。香ばしくて旨い。
それを勇者に手渡すと、熱いのか両手の平を行ったり来たり、行ったり来たり。
「あちち。あちち」
「ふーふーして食べてくださいよ」
「えー。おねえたんやってー」
「もう。勇者さまったら甘えん坊なんだから」
ミューは勇者のパンをつまんで、息を吹きかけて冷ましてやった。
「わぁ。美味しそう!」
「どーぞ。召し上がれ」
「いただきまーす。はぐはぐ。はぐはぐ」
美味しそうに食べる勇者を見てミューは楽しそうに微笑む。
家族を失って久しかったが、急に家族が出来たような感覚。
西の都サングレロまで行くまでの疑似家族。
ミューはそれまでの時間を大切にしたかった。