第22話 コボルドとトロル2
勇者はトロルと遊べと言われて目をキラキラさせた。
「ねぇ、何して遊ぶ? 何して遊ぶ?」
「そうさなー。かくれんぼではすぐにトロルの旦那は見つかってしまうし、鬼ごっこも足が遅いからな」
「隊長。遊ぶって、マジ遊びですか?」
「お。違った。相撲。相撲はどうだ!」
「うんいーよ! やったぁ! お相撲だぁー!」
山のようなトロルと、1メートルにも満たない勇者。
二人は野原の真ん中で四股を踏んだ。
ミューはこの分別がつかない二人が荷車を壊しては大変と、手で引いて遠くに離れた。
コボルドの隊長は軍配を取って行司を務める。
「に~ぃしぃ~。トロルの山ぁ~。トロルの山ぁ~。ひがぁしぃ~。勇者の里ぉ~。勇者の里ぉ~」
二人の間に緊張が走る。
「見合って見合ってぇ~。はっけよぉ~い。のこった!」
コボルド隊長の号令で、勇者は小さい腕の突っ張りを繰り出しながら突進した。
「どすこいどすこい」
余りのかわいらしさに、トロルも大口を開けて笑ってしまった。
だが向こうずねに激痛が走る。
勇者の渾身の突っ張りが決まった。
トロルは涙目になりながらダメージを受けた足を後ろに引いた。
「どすこいどすこい」
目の前にあったトロルの足が消えたので、今度は別の足に移る勇者。もう片方も打撃を受けてはたまらんと、トロルはその足を上に上げた。
勇者はまた目の前から消えた足を探していると、トロルはよろめいて、勇者の上に大きな足をドスンと下ろしてしまった。
「勇者さま!」
「……と、トロルの山ぁ~……」
コボルド隊長がトロルに軍配を上げた。トロルも強敵を倒したとホッと胸をなで下ろしたその時。
トロルがバランスを崩す。
片脚が上がってゆく。
「くっそぉ~。負けないぞぉ~」
勇者がトロルの足の下からそれを持ち上げて現れた。
そして、両手を頭の上で回すと、トロルの体は勇者を軸にして大回転。
「それー!」
勇者はトロルを持ち上げたまま飛び上がり、遠くに投げ飛ばした。
トロルの体は放物線を描きながら地面に落下。15メートルほど先に転がった。
「勇者の里ぉ~。勇者の里ぉ~」
コボルド隊長が軍配を勇者に向ける。
勇者はその場でガッツポーズをとった。
「隊長。行司に徹してる場合じゃありませんぜ?」
「あ。そうか」
トロルは野原の真ん中で目を回している。
「はっはっは。勇者。オレたちの勝ちだな」
「なんで?」
「トロルの旦那は負けたが奥の手があるのだ!」
勇者とミューがトロルのほうに目をやると、大きなお尻からジェット噴射のようにガスが飛び出した。
「あ。オナラだ~。ぷぷぷぷ」
ミューはすかさず自分と勇者の鼻を布でおおった。
「はっはっは。トロルの旦那の最後っ屁だーッ! どんなに強靱な貴様でもこれをひと吸いすれば、視力を失い、気が狂い、人事不省に陥るのだバカめ! あ、あぐ!」
しかし風向きはコボルド側に吹いていた。彼らは犬に似ているのは、なにも姿形だけではない。嗅覚も犬に似て優れているのだ。
当然、そのまま人事不省に陥った。
ミューは口に布をあてたまま、ロバを呼んで車につなぎ、さっさとこの地を後にしてしまった。