第2話 コボルド1
少女と勇者は大きな木の下でキャンプの準備をしていた。
少女のそばには聖剣グラジナ。
その持ち主である勇者は両手にたきぎを抱え、よろめきながら歩いていた。
「んーしょ、んーしょ」
「まぁ、勇者さま。お手伝いなんてエラいわ」
「んー。あのね~。ボクね~。カッコいい棒を見つけたんだ~」
たきぎをくぼみに置くとその中から真っ直ぐで長い棒切れを二本。それでかっこ良く構えた姿を少女は拍手した。
「まぁ強そうだわ。勇者さま」
「エッヘン。ボクは勇者だぞー!」
「その通り。勇者さまは勇者ですわ」
「えへへへ」
その時、草むらの音を立てて現れたのは狼面したコボルドの集団。手にはそれぞれ武器や盾を持っている。
キチンと訓練された魔王軍の兵士だ。
「やれやれ。勇者がいると聞いてきたが、きてみれば旨そうな人間の子どもが二人。焚き火もあるようだし早速、人間の煮込みでも作ろう。捕まえて湯を沸かせ」
「いえ、隊長どの。今日は焼き物の日であります」
「バカを言うな。今日は煮物だ」
「真ん中とって蒸すというのはどうでしょう?」
「何処が真ん中だ!」
「カラッと揚げるのもなかなか」
コボルドたちはめいめい勝手なことを言っているのを二人はポカンとした目で見ていた。
やがて勇者がそれを指差す。
「ナンナン」
「ワンワンですよ。勇者さま」
「うん、そう。ナンナン」
コボルドの隊長は狼面を勇者の眼前まで近づけた。
「誰がワンワンだ。誰が」
「くふふ。このおじたん、クサイ」
勇者は口を押さえて笑ったのに対し、コボルドの隊長は顔を真っ赤にして怒った。もっとも、モフモフな毛に覆われて赤いかどうかは分からなかったが。
そもそも、コボルド族は人間よりも長い体毛に覆われており、新陳代謝による老廃物が体毛に付着しやすい。
個体差があるが、それぞれが多少臭うのだ。
「まぁ、勇者さま。そんなことを言ってはいけませんよ!」
「あ……ごめんなたい。ワンワンのおじたん」
「もう遅い。このガキ、美味しく煮込んでやる」
隊長が勇者に飛びかかる!
あやうし!