第14話 グリフォン1
その頃、少女ミューは農場で刈り入れをしていた。
魔物によって家族を殺されたった一人。
明日、魔物に襲われたら自分も同じ運命だった。
「ああ、神様。どうか勇者様が世界を救って下さいますように」
その当人は彼女の農場の端で自分の衣服の中を泳いでいた。
ミューが一人で広い畑仕事をしていると農場の木の杭の囲いの端に海色のマントが落ちている。それは魔物のものではない。人のものだとすぐに分かった。
久しぶりに自分以外の人のものを見つけて心の中に温かいものが溢れ、その落とし物を拾いに行った。
するとそれがモゾモゾと動いている。
猫がウサギとも思ったが大きい。ミューが首を傾げると、そこから裸の子どもがひょいと顔を出した。
「あっれ~? おねいたんシェイドは~?」
「え? シェイドって誰?」
「あのね、えーと、うーんと、魔物だよ。悪者なんだ~」
「え?」
ミューの心がざわつく。とうとう魔物がこの地に来てしまった。
そしてこの子どもは一体。
よく見るとマントのそばには色々なものが落ちている。
フェニックスの尾羽の飾りが付いた金と紫の兜。
子どもの腰には付けられそうもない大剣。
七色に輝く鎧。大きめの道具袋。
この持ち主は誰であろう?
謎が多すぎてさっぱり答えが出なかった。
「あなたは? あなたのご両親は?」
「あ、おとうたんとおかあたんは小さいときに死んじゃった。ボクは勇者ユークだよ」
小さいとき? 今でも充分小さい。
しかし、勇者ユーク!
それは今、魔王討伐に出立したはずの人類の希望。
それが彼。
少女ミューはハッとした。
先ほど彼が言っていたシェイドと言う者が、若返りの魔法をかけたのでは?
それならばつじつまが合う。
ここに転がるものは勇者の装備品と魔法のアイテムが入った道具袋。
そうであるならば急いで保護しなくてはならない。
彼女は子どもと化した勇者を脇に抱き、勇者の装備品や道具を拾い集めて家の中に入り込もうとした、その時。
雄叫びを上げて空より飛来したのは、鷲の上半身、獅子の下半身を持つグリフォンだった。
悪食のこの怪物はたまたまミューを空から見つけて食事にしようと襲いかかってきたのだ。
「きゃっ!」
「わー。大きいね! びっくりしたねー」
「勇者さまを守らなくては!」
ミューは勇者を抱いて軒下に連れて行き、自分は勇者の持ち物である聖剣グラジナを抜いて戦おうとしたが抜けない。
そうこうしていると、グリフォンは少女の家を鉤爪のある前足で踏み潰して壊そうとした。そのくらい大きな怪物なのだ。




