第12話 大魔導士マギョイ3
店主が前に出ると、彼より背の高い魔物の戦士たちがその肩を押さえて輿の魔物の前に引き出した。
輿の魔物は一瞥してため息をついた。
「オマエではない。勇者は子どもだそうだ。ウソをついて守ろうとしているな?」
「そ、そんなことはない。オレが勇者だ。だからオレの命と共に村は勘弁してくれ!」
「ふふふふ。ずいぶん安い村だのう。こんな男の命と引き換えとは。勇者よ出て来い! さもないとこの男を殺すぞ!」
勇者はためらいもせずに、ちょこちょこと前に進み出た。
味方からも敵からも驚きの声が上がる。
「ボクが勇者さ。悪者め~。ごっちんするぞ~」
村人たちからは悲痛な声が上がり、敵からは笑いの声が上がった。それを輿の魔物は大喝する。
「おだまんなさい! 自身の油断が一番の敵。まずは倒してから笑いなさい」
魔物の戦士たちはハッとして武器を構えて勇者に襲いかかったが遅かった。
「シャイニングブレイク!」
勇者はパッと聖剣グラジナを抜いてその場で大きくひと回転すると光の波が魔物たちに押し寄せ体の中を通過する。魔物の戦士たちは上と下に別れて地面に転がった。それは楼閣のような輿まで届き、それも半分に割れて輿の魔物は地面に投げ出された。
だが、輿の前にいた道具屋の店主。
彼だけは傷一つ負わなかった。
「い、言わんこっちゃない! バカどもが!」
死んでしまった兵士たちを毒づいても始まらない。
輿の魔物が顔を上げると勇者と目が合った。
輿の魔物マギョイは冷や汗をかきながら立ち上がった。
「オッホン。ワシは大魔道士マギョイ。勅令によりそなたを殺しにやって参った」
「おじたんは悪者だね」
「なるほど、シェイドの呪いで幼児になったのだな。しかしその剣術は健在。だが魔法はどうだ」
マギョイは指を立ててニヤリと笑う。
たしかに。魔法には知力が必要だ。勇者はそれを失ってしまっているだろう。魔法を唱えるには契約の言葉が必要なのだ。
魔法を封じるために、敵を動物に変えてしまう魔法だってある。
彼の言葉はたどたどしい。魔法など唱えることは出来ないだろう。
「どうだ。一つ魔法合戦といくか」
マギョイの提案。勇者は大きく頷いた。
雪合戦のような響き。楽しそうな遊びだと思ったのだ。
マギョイは直ぐさまブツブツと呟き出した。
「マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 炎の巨人バラトンよ」
その言葉に勇者は手を打ってはしゃいだ。
「わぁ、かっこいい! まーれい ばーれい ばりしゃす ばらとん」
マギョイの真似だ。たどたどしい言葉遣いにマギョイは思わず苦笑したが、自分の勝ちを確信した。マギョイの前に大きな火球が音を立てて回り出す。彼はそのまま言葉を続けた。
「我の元に来い 古き契約を忘れるな 我に従い 我の敵を討て」
「われのもとにきて ふるいけいやくをわすれるな われにしたがいて われのてきをともにうつ」
なかなか上手に復唱するものだと感心しながら出来上がった大きな火球に、最後の言葉を唱えた。
「ボルガ!」
その刹那、勇者の元に大きな火球が飛ぶ!
村人たちは、このままでは巻き込まれると地面に伏せた。
だが、勇者の前に大きな壁があるように魔法はそこにぶつかって消えた。
勇者の目に輝きが宿る。まるで今までの勇者ではないように、魔法の続きを唱え出す。
「ここのつのくびをもつじごくのアテンザ そのちからをしめすとき こんしんのちからをときはなち かのてきをやきはらえ」
「ヒイ! 多い! 契約の言葉が多い!」
マギョイはバタバタもがくように逃げようとしたが遅かった。
勇者はマギョイよりも10倍ほどの火球を作って最後の言葉を唱えた。
「ダイボルガー!」
途端に転がる魔物の死体もマギョイ巻き込んできれいさっぱり炎で焼き消してしまった。
マギョイの魔法は上級の炎の魔法だった。だが、勇者のそれはさらに上級だったようだった。
村人たちから歓声があがる。勇者は照れて頭を掻いた。