第11話 大魔導士マギョイ2
子どもたちも我勝ちに家に走り込んでしまった。ポツンと勇者は一人だけ残された。
「……いいなぁ。みんなにはおうちがあって、おかあたんがいるんだ」
勇者はそこにしゃがみ込んで芝をむしった。
「いいもん。いいんだもん。ボクにはおねえたんがいるんだもん。おねえたんがお迎えに来てくれるもん」
勇者の目にじんわりと涙がにじむ。
「勇者さま?」
見ると少女が近くに来ていた。勇者は黙って少女の足にしがみついた。
「勇者さま。魔物ですよ」
「うん。おうちに入ろう」
「何を言ってるんです。戦うんでしょ?」
「うん。そうだった。ボク頑張るよ」
「頑張ればお菓子が食べれますよ」
「お菓子? やったぁ! めでたい。めでたい」
お菓子は貴重なものだ。少女はたまにしかない集落なので勇者にお菓子を買ってあげようと思っていた。
勇者なら易々と魔物を倒すだろう。そう思っての言葉だった。
勇者と少女は集落の入り口まで急ぐと、魔王軍の旗を抱えた甲冑の戦士二人を先頭に、その後ろには四列縦隊で行進してくる魔物の兵団だ。
その後ろには楼閣のように高い輿があり、身分高そうなローブを纏った魔物がいる。それが大将であろう。
村人たちは震えた。
「くそぅ。ここまで訓練された魔物が押し寄せてくるのは初めてだ」
「今のうちに逃げて、他の集落に入った方が良くないか?」
「バカ! せっかく作った畑を簡単に捨てられるか!」
「で、でもよう」
たしかに負けは必至の状態だ。村人に戦闘の訓練はない。
少しばかり腕が立つものがいるが多勢に無勢だ。敵うものではない。
魔物の群れは立ち止まり、輿の魔物より書簡を預かった魔物が先頭に躍り出て、その書を読んだ。
「上意である。集落に勇者がいるはずだ。速やかにそれを出せ。出さなければ村を踏み潰す。大魔道士マギョイ。代読、副官バガス」
村人たちは顔を見合わせた。
当の本人はみんなの足元でポカンと口をあけていたのだが。
この勇者のことを知っているのは道具屋の店主だけだ。しかし彼は躊躇した。あれは小さな子どもだ。まだ勇者になっていない。これほどの軍勢を相手になどできない。
彼は人類の希望。逃げて再起を図って貰いたい。
自分が犠牲になっている間に。店主はゴクリとツバを飲んだ。
「オレが勇者だ!」
「なに? トマスが?」
村人たちは声を上げる。そんなはずはない。
彼は自らの身を挺して村を守ろうとしていると思ったのだ。